
ジョンソン・エンド・ジョンソンやカルビーなどで、経営者として目覚ましい実績を残してきた松本晃氏。カルビーでは女性が活躍する環境づくりと働き方改革をセットで推進した。同社は今、ダイバーシティ先進企業として注目される。こうした取り組みの前提が成果主義だ。社員を時間で評価するのではなく、成果で評価する。同時に、急速に進化するICTの活用にも積極的に取り組み、ビジネス価値を拡大してきた。そんな松本氏が働き方改革の要諦を語った。
伊藤忠商事でビジネスマンとしてキャリアをスタートした松本晃氏は、その後、経営者としてジョンソン・エンド・ジョンソンやカルビーの成長をリードした。2009年から18年までの9年間、松本氏が経営トップとしての任にあったカルビーは、その間に売上高を約2倍、営業利益を6倍以上に拡大している。
カルビー時代、松本氏が注力したのが働き方改革と女性活躍に向けた取り組みである。例えば、同社の女性管理職比率は2010年4月に5.9%だったが、2018年4月には26.4%に上昇。ダイバーシティ先進企業として、他の企業や学生などからの注目を集めている。
「ダイバーシティまたは女性活躍と働き方改革、この2つはセットです。昔ながらの働き方を残したままで、女性に『活躍しなさい』といってもムリ。長時間労働が当たり前の職場では、ワークとライフをバランスさせることが難しい。こうした環境の中で女性を登用したとしても、期待どおりに活躍できる人は少ないでしょう」と松本氏は話す。
松本氏がカルビーCEOに就任してほどなく実施した組織再編がある。全国を4つの地域に分け、各地域のトップに大きな権限を付与した。4人のトップの1人が女性だった。松本氏は彼女に対して「毎日、午後4時に帰れ」と命じた。
「カルビーの経営者として、命令したのはこのときだけです。午後4時に会社を出れば、午後5時には帰宅できるでしょう。途中で買物をしても午後6時半には一家団らん。彼女が朝何時に出勤して昼間何をしているか、そんなことは私には関係ありません。私の関心は成果だけです。彼女はきちんと成果を出し、担当地域の業績を大きく伸ばしました」
働き方改革と女性活躍の前提には、成果主義がある。日本では時間で従業員を管理する企業が一般的だが、松本氏はこれを時代遅れと考えている。
「日本では、戦後製造業中心の産業構造が長く維持されました。確かに、工場であれば同じ時間に出社して、同じ時間に休憩し、同じ時間に仕事を終えるのが当たり前です。出社時間がバラバラでは、生産ラインをスムーズに動かすことはできませんからね。しかし、オフィスワーカーにこのルールを適用する必要はありません。成果さえ上げていれば、どこでどんな働き方をしようと構わないはずです」
松本氏は社内に向けて、「大事なのは時間ではなく、成果」というメッセージを繰り返し伝えたという。もし「長く働くほど会社に貢献している」と考える社員が多ければ、午後4時に帰路につく女性幹部が生まれることもなかっただろう。
今、テレワークやモバイルワークは着実に普及しつつあるが、かつてはオフィスワーカーが働く場所を自由に選ぶことは難しかった。オフィスに行かなければパソコンがない、あるいは業務に必要な資料を見ることができない、それが当たり前だった時代がある。
しかし、ここ20ないし30年の間のICTの急速な進化が働く環境を大きく変えた。働き方をサポートする便利なツールが、今も次々に登場している。便利なツールも数年後には陳腐化していく。そのときには、バージョンアップするなり、最新のものに買い替えるなりすればいいというのが松本氏の考えだ。
経営者はICTの知識がなくても大丈夫!?
松本晃氏が明かす「仕事の哲学」
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「ICTのおかげで、場所や時間に縛られない働き方が可能になりました。せっかく便利なツールがあるのに、使わないのはもったいない」と松本氏。ただ、企業によっては「自分がよく分からないから」といって導入に消極的な経営者もいる。松本氏はこう語る。
「私自身、ICTはあまり強くありません。しかし、専門家たちの話を聞けば、ICTがどんなことに役立つのか、どのようなビジネス課題を解決するのかを理解することができます。大規模なICT投資をするときには、信頼できる助言者の話をしっかり聞いて意思決定しなければなりません。ただ、働き方を改善するためのツールは、それほど大きな投資ではありません。現場の判断で使いたいものを導入して、もし効果がなければ、別のツールに切り替えればいい」
ここにも、松本氏の経営者としてのポリシーを垣間見ることができる。松本氏はできるだけ権限を委譲し、社員たちのパワーを最大限に引き出そうと努めてきた。
「経営者や上司があれこれ口出しすると、社員のやる気がそがれるだけでなく、うまくいかなかったときのエクスキューズになります。成果が出ないとき、『上が経費をケチったからできなかった』などという社員もいるでしょう。権限を委譲すれば、つまらない言い訳はできません。エクスキューズができなければ、結局は本人の責任です。成果に対する自己責任を徹底するためにも、権限を委譲する必要があります」
パソコンやタブレットなどのデバイスは低価格化した。グループウェアやビジネスチャットのようなコミュニケーションツールも同様だ。しかも、クラウドサービスの選択肢は多く、各種ツールを手軽に導入できる時代である。企業が導入する際の敷居は、以前と比べて格段に下がっている。
働き方改革を進める上では、オフィス環境も重要だ。松本氏は「人間は環境の動物」という。「ゴミだらけの狭い部屋で大勢が働いていたら、いい知恵なんて浮かばないでしょう。オフィスは作業場ではなく、知恵を出し合い、頭を使う場所です。私がカルビーに入って、真っ先にやったのはオフィスの改革。それが、働き方改革につながりました」
カルビーにおけるオフィス改革の柱はフリーアドレスの導入だ。固定席の場合、机の上には資料などがたまりがちだ。置き場所がなくなったら机の下。こうして、不要なモノまで増えてしまう。机上の半分以上が資料類に占領され、わずかなスペースで仕事をしている人が多いのではないだろうか。
昔ながらのオフィスを、カルビーはフリーアドレスで刷新した。フリーアドレスを導入した企業の中には、いつの間にか席が固定化してしまうケースも見られる。カルビーは「ダーツ」というシステムによって、着席場所にランダム性を取り入れた。出社時、オフィス入口に置かれた専用のコンピューターにIDカードをかざすと、システムが自動的に座席を割り当てるという仕組みである。その日の仕事内容によって3タイプのワークスペースを選べるが、どこの席になるかはシステム任せだ。
「今日の席と、明日の席は違います。だから机の上や下にモノを置いて帰ることはできません。ロッカーに入れるか、持ち帰るか。いずれにしても、机の周りには何もなくなります」
また、オフィス改革では紙の扱いも重要なテーマだ。今ならさまざまな情報をデジタル化することができる。ペーパーレス化を徹底する企業も増えつつある。
「何十年も前のことですが、当時勤めていた伊藤忠商事に『つくるな、焼くな、綴じるな』というルールがありました。書類なんてつくるな、コピーをするな、ファイルに綴じるなという意味です。資料に穴をあけてファイルに綴じてしまうとそれが最後、一生出てきません」
今なら情報をデジタル化して整理すれば、簡単に検索して取り出せる。二度と使わないかもしれない資料づくりに時間を取られるよりも、もっと有効な時間の使い方があるはずだ。一人ひとりが有限の時間をいかに活用するか、それにより、いかにビジネス価値を創出するか。それは、働き方改革においても欠かせない論点である。
松本晃氏は、社員の力を引き出すに当たって、仕事の成果で評価すると同時に、「自由に働ける場を提供する」と話します。経験の浅い社員に任せれば、失敗する事態も起こるでしょう。「それでも構わない」というのが松本氏の考えです。
大事な点は、失敗した原因を見極め、「失敗から学べ!」です。それによって、同じ失敗を繰り返さずに済み、成功への道が開けてくるからです。
これは、ICT投資でも同じです。「自分が詳しくないから」「安全性に不安が残るから」などと理由をつけて、経営者がICTの活用を避けていては、生産性は高まらず、働き方改革も進まないでしょう。
クラウドサービスの登場で、ICTに必要な投資コストは以前よりも下がっています。まずは試してみましょう。経営者自身は分からなくても、デジタルに慣れ親しんでいる若い人たちがICTツールを使いこなして成果を出すかもしれません。もし成果につながらないようであれば、その原因を探って、対策を打つ。この過程で、ICTをどう活用すればいいかが見えてくるはずです。
松本氏は「一般論として、中小企業の経営者はICTに弱い。でも、今は使わないと、会社が生き残れない」と言い切りました。会社の存続、そして成長のために、経営にICTを取り込むことが不可欠な時代になっています。
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