日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 05 日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 05

夢は製造業版のLVMHグループ!
13社を束ねる
持ち株会社で
中小製造業の
成長モデルをつくる

父親から引き継いだ会社の再建がテレビドラマ化されるなど、メディアでも注目を集める精密金属加工メーカー・ダイヤ精機(東京都大田区)の諏訪社長が、気になる社長を直撃する連載。今回話を聞いたのは、医療機器や宇宙航空分野の部品の製造加工を担う由紀精密(神奈川県茅ヶ崎市)の大坪正人社長。大坪社長は由紀精密を経営する一方で、とがった要素技術を持ちながら後継者難などの状況にある中小製造業を傘下に収めた持ち株会社、由紀ホールディングスの社長も務める。ともに父親から事業を承継した2人が、経営について語り合う。

  • 大坪正人のプロフィール画像
  • 大坪 正人
    おおつぼ・まさと

    1975年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻修了。2000年、ベンチャー企業のインクスに入社し、「世界最速の金型工場」を設立。06 年、父が経営する由紀精密に常務取締役として入社。13年に代表取締役社長。17年10月にはグループ持ち株会社の由紀ホールディングスを設立し、代表取締役社長を務める。

  • 諏訪貴子社長
    (以下、諏訪)
  • 諏訪貴子社長(以下、諏)大坪さんは3代目社長ですよね。実は私、2代目、3代目社長とお会いして、悩み相談を受けることが多いんです。よく聞かれるのが、「社長の仕事って何ですか?」という質問。1年目、2年目のときは私も悩みました。大坪さんにとって、社長の仕事とは何ですか?

  • 大坪正人社長
    (以下、大坪)
  • 大坪正人社長(以下、大)いきなり難しい質問ですね。私が考える社長の仕事とは、将来のビジョンをつくり、社員に可能性を示すことでしょうか。決断することが社長の仕事だという意見もあると思いますが、私はあまり決断をしたくない。社長が全部決めてしまったら、社員はすることがなくなるでしょう。だから、決断も任せるんです。

  • それはすごいですね。でも、社員がそれぞれ決断をしてしまうとバラバラになってしまうので、決断の軸となる考え方が必要ですよね。

所属も採用も
現場に任せる

  • それで、会社が大事にしている考え方をまとめた「由紀スタイルブック」という冊子を作りました。もともと私が言い出したわけではなくて、社員の提案で始まったプロジェクトで、1年くらいかけて完成したものです。その制作工程に途中まで私は入れてもらえませんでした(笑)。

     例えば、取引先に対して偉そうな態度をとるのは由紀精密らしくない。全員が大切なパートナーだからリスペクトの気持ちを持とうという話だったり、仕事を選ぶときも利益だけを追求するのではなく社会に価値のあることを大事にしましょうという内容だったり。内容はすべて社外秘ですが。

  • それは新入社員研修のときに渡すのですか?

  • そうですね。冊子を配っています。会社が大事にする考え方を浸透させるには時間がかかると思っていますし、どう浸透させるかも社員に任せています。あと、社内では所属する部署も、自分たちでやりたいと手を挙げて選べるようにしています。例えば、広報の女性社員が、「自分でものづくりをして出荷するところまでを経験したい」と希望して製造部に1年間所属しました。

     採用も各部門長に任せています。自分で採用したら教育にも責任感が芽生えるでしょう。私が決めると「社長、こんな人を採っちゃってどうするんだよ」と思ってしまいますから。自主性を大事にするというときれいすぎますが、社員に責任感を持って働いてもらうという意味では、厳しい社長かもしれません。

  • でも、それがきっとやりがいになるんでしょうね。

  • 諏訪 貴子のプロフィール画像
  • 諏訪 貴子
    すわ・たかこ

    1971年東京都生まれ。成蹊大学工学部卒業。自動車部品メーカーを経て98年ダイヤ精機に入社。以降、経営方針の違いから2回リストラに遭う。2004年父の急逝に伴い、ダイヤ精機社長に就任。経営再建に着手する。近著に『ザ・町工場』(日経BP社)がある。

  • イメージ画像

「社長にはなるな」
と言われていた

  • 由紀精密は大坪さんのおじい様が創業された会社ですよね。大坪さんは、子供の頃から3代目になるように育てられたのですか?

  • 跡を継ぐとはまったく思っていなかったですし、家族から言われたこともありませんでした。むしろ「社長にはなるな」と諭されていたんです。経営の見通しが厳し過ぎて、祖母からは「最終製品を作る大手のメーカーで働きなさい」と言われていました。

  • 大学の専門は機械ですよね。ものづくりには興味があったんですか?

  • すごく好きでした。子供の頃は、工場と自宅が隣同士で、母親が私をおんぶしながら作業したりしていたので、生まれたときからものづくりの現場で育ちました。特に自動車が大好きで、幼稚園のときには走っている車の車種だけでなく、排気量を1桁単位まで言えていました。

  • 当時は、ちょうどスーパーカーブームもありましたしね。それだけ機械が好きだったのでおばあ様の希望通り、東京大学という一流大学に進まれた。でも大手メーカーには就職されなかったのですね。

  • 製造業のものづくりをIT(情報技術)化するというミッションを持っているインクスというベンチャー企業に入りました。

     東大には大手メーカーの推薦枠があり、望めばほとんどの会社には入社できたんですね。私は機械が専門でしたから、メーカーに入って設計者になるのかなと漠然と考えていました。でも、心の中で「本当にそれでいいのかな、なんか面白くないな」と思ってしまったんです。

  • 普通はそれでいいと思うんですよね(笑)。

「世界最速の
金型工場」を
実現した
ベンチャー時代

  • それで、金融系やコンサル会社など、推薦枠のない業界の説明会に行ってみたところ、インクスという会社に出合ったんです。ITを使ってものづくりを変える、というのがすごく面白いな、と感じました。当時は社員が100人に満たない会社でしたが、急成長していました。私が入社して6年間で1600人にまで増えましたから。

     インクス時代は、とにかく激動でしたね。入った瞬間、「世界一速く金型を作ってくれ」と言われて、「えっ?」みたいな(笑)。金型なんて見たことも触ったこともありませんでした。そこから勉強して、3年後には世界シェア3割にまでなりました。図面を印刷しなくても金型が作れる、つまり紙を1枚も使わない仕組みを考えたんです。

     クライアントの本社があるフィンランドまで出張して、ものすごい額の受注が決まり、帰りの飛行機の窓の外にはオーロラが広がっていて……。夢か現実か分からないようなふわふわした状態でした。

  • それだけグローバルに活躍されていた大坪さんが、家業を継ごうと考えられたのはなぜですか?

  • 由紀精密はずっと、公衆電話のテレホンカードを読み込むカードリーダーの部品を作って売り上げを立てていました。しかし、公衆電話が減るのと同時に経営状態が苦しくなって、社員たちのする仕事がなくなっていました。私は最初、前職の経験を生かして、経営再建だけをしようと考えて戻ってきたんです。だから由紀精密に長くいるつもりはなかったのですが、やってみると楽しいですし、業績を立て直したからあとはよろしく、とは言えないですよね。

     給与は前職の3分の1以下になりましたが、仕事はお金ではないと思っていましたし、忙しすぎて体調を崩したりもしていましたので、戻るのもいいか、と考えたんです。

  • お父様と意見が食い違ってケンカになるようなことはありませんでしたか?

  • 経営方針でぶつかることはなかったですね。父は私のやることにはほとんど反対をしません。

  • うらやましいです。私は2度も「お前はクビだ!」って言われましたけど(笑)。社員の方にはすんなり受け入れられましたか?

  • 私に対して気に入らないと思うところもたくさんあったはずですが、表立って反発するような社員はいなかったので、やりやすかったですね。私も、これまでの由紀精密を否定するようなアプローチはしませんでした。たまたま今までの分野がダメになっただけで、切削加工や精密加工のノウハウもある。違う分野で生きていけばいいと考えて違う業種に営業していきました。

毎週、経営状況を
全社員に伝え続ける

  • 社員たちにはできる限りの説明をするように意識しました。毎週月曜日の朝、全員を集めて1時間くらい経営状況について話す場を設けました。今こんな問題があるとか、お客様のこと、品質のことなどを共有するんです。最初は「シーン」としていましたが、それでもやり続けようと決めました。今は部門長が話すスタイルに変えて、この情報共有の場を続けています。

  • 製造業でもIT化が進んでいますが、由紀精密ではどんな取り組みをされていますか?

  • 本社と東京オフィス、新横浜の開発部の3拠点にカメラを設置し、全拠点で互いの映像を見てそれぞれの状況が分かるようにしています。

  • 導入のときに、抵抗はなかったですか?

  • 一方向だと確かに監視されているように感じるかもしれませんが、双方向だからいいのでしょうね。映像を見て、お互いの存在をずっと感じられる。また、電話が掛かってきたときなどは、相手が席にいるかを画面で確認してから転送しています。

  • 映像のほかに、日ごろ使っているシステムはありますか?

  • 社員の通信環境でいうと、携帯電話を2台持ちするのは大変なので、一部費用を会社が負担する形で、みんな自分の携帯を使っています。セキュリティーの問題は難しいところではありますが、SNS(交流サイト)利用の際のガイドラインを作るなど、ITリテラシーの教育などを続けていくしかないと思っています。

     あと、面白いところでは「YUKI di Wiki(由紀字引)」という社内限定のウィキペディア(誰でも編集できるオンライン百科事典)のような仕組みがあります。社内LANの環境下だけで更新・閲覧ができるのですが、社員が由紀精密の情報をどんどん書き込んでいます。

     加工技術や宇宙関係の部品を設計するノウハウなど仕事に関するものもあれば、オフィス周辺のおいしい飲食店や、出張のときにお薦めのお土産などの情報もあります。コンテンツが充実しはじめて、見応えのあるものになってきています。

中小製造業の
成長メソッドを
横展開

  • 2017年には、中小製造業をグループ化して、由紀ホールディングス(HD)を立ち上げられました。どういう経緯なんでしょうか?

  • もともとのアイデアは、前職時代にあります。良い技術を持ちながら経営が苦しい会社やIT化が進んでいない会社をM&Aを通じて支援し、立て直すということをやっていました。この仕組みの良さは、利益共同体になるところにあります。もしコンサルタントとして関わるとなると、少しの労力でたくさん報酬が欲しいと思うでしょうし、会社側もできるだけお金を払わずに経営を効率化したいと考えます。利益相反そのものです。そうではなく、資本を持つことで相手のための行動と自分の利益が一致するのがポイントです。

  • 持ち株会社をつくる決断をするのは大変だったのではないでしょうか。

  • そうですね。決断するまでに5年かかっています。今、由紀HDの傘下にあるグループ会社は由紀精密を入れて13社あります(18年11月時点)。すべてバラバラの会社を買い取ったわけではなく、もともと数社を束ねていた会社をそのまま買収し、そこに1社が新たに加わった形です。

     HD設立のきっかけは、5年前です。新規開発する機械を試しに使ってみてほしいと依頼されてレポートを書いたことでした。3年前くらいからその会社にアドバイザーとして入って、経営会議にも出ていると技術の強みも課題も見えてきますし、子会社の社長とも仲良くなる。グループはすべてものづくりの会社でしたので、そこに自分の経験を生かせるのではないかと考えました。

     3年間アドバイザーを務めた後、17年4月にグループの取締役になり、10月に持ち株会社を興こし、18年に入って由紀HDとしてグループ化したという流れです。

  • このHDの仕組みは今後どうなっていくのでしょうか? 入りたい会社を全部受け入れていたらどんどん大きくなりますよね。

  • ルイ・ヴィトンを傘下に持つLVMHグループみたいな形が理想ですね。中小製造業では、自分の強みを生かして長期的に成長する道筋が、うまく描けないことが多い。私たちのグループでそれができるインフラの例を作っていきたいんです。LVMHグループは開発環境やファイナンス機能はHDが持っていて、ファッション、化粧品、お酒などのブランドがそのインフラを使いながら個性を生かして活躍しています。

     しかし、規模はそれほど大きなものを目指していません。それよりも、日本の中小製造業に合うモデルをつくって、横展開していきたいと考えています。

  • 今後が楽しみですね。ありがとうございました。

構成:尾越まり恵、写真:鈴木愛子

文中記載の組織名・所属・肩書・数値などは、すべて取材時のものです。

中堅・中小企業経営センター イトー所長の眼

中小企業にも
身近になったM&A
まず目的から考えてみる

 由紀精密の大坪正人社長は、M&Aで会社を新たな方向に踏み出させることに成功しました。かつては抵抗が強かったこの手法ですが、このところ中小企業の間でもM&Aの話を頻繁に聞くようになりました。

 例えば、後継者がいないという各地の自動車修理工場を次々と買収しているのは、近畿地方に本拠を置くある自動車修理工場です。新車の販売台数は減少しており、安全装置などの進化により事故は減る一方だそうで、どちらかと言えば、この業界は右肩下がりの状況が続いています。

 そうしたなかで、経営的に苦境に陥った工場を救済する形で買収するケースが多いそうです。既に何社も救済しているので再建のノウハウがたまっており、人材を送り込んだり、工場を移転したり、整備用の機械を変えたりすることで、比較的短期間に黒字に転換できるとか。すると、各工場は古くからの顧客がいるので、その先は安定的な収益をあげられるようになるそうです。

 経営者は、経営不振、後継者難など様々なケースで「会社を買い取ってもらえたら」ということが頭をよぎるかもしれません。一国一城の主としてなかなか決断しにくいかもしれませんが、じっくりと時間をかけて考えてみれば、M&Aという方法も解決策として浮上してくるかもしれません。新しい資本により、店舗や設備を入れ替えてよみがえった会社は少なくありません。

伊藤暢人のプロフィール画像

伊藤暢人
いとう・ながと

日経BP総研
サステナブル経営ラボ 所長
中堅・中小企業経営センター センター長

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中小企業経営研究所(現在の中堅・中小企業経営センター)の設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省や東京都などが主催する賞の審査員を歴任。

センター概要

2017年4月に本格的に稼働した「日経BP総研 中小企業経営研究所」は19年1月に「日経BP総研 中堅・中小企業経営センター」と所名を変更し、中堅・中小企業の成長と経営健全化を支援するために活動を進化させています。これまで培ってきた経営・技術・生活分野での見識を活かし、情報発信や調査、教育、コンサルティングなど様々な形でサポートします。

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