日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 04 日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 04

わずか20歳で事業承継
現場とオフィスの“NC化”で
会社を10倍に成長

父親から引き継いだ会社の再建がテレビドラマ化されるなど、メディアでも注目を集める、精密金属加工メーカー・ダイヤ精機(東京都大田区)の諏訪社長が、気になる社長を直撃する本連載。今回話を伺ったのは、わずか20歳で祖父から事業承継した、同じ製造業の若き社長、月井精密(東京都八王子市)の名取磨一氏。ともに社長歴15年という2人が、製造業の経営について語り合う。

  • 名取磨一のプロフィール画像
  • 名取 磨一
    なとり・きよかず

    1983年東京都生まれ。2002年東京都立日野高校卒業。同年4月、祖父が経営する月井精密に入社。04年4月、祖父の病により、20歳の若さで代表取締役に就任。15年には株式会社NVTを立ち上げ、製造業のクラウド見積もりサービス「TERMINAL Q」を開発。

  • 諏訪貴子社長
    (以下、諏訪)
  • 諏訪貴子社長(以下、諏)名取社長は代表になられてから、どんどん会社を成長させていますよね。おじい様と2人の時代から始められて、順調に売り上げを伸ばされていると伺ってすごいなと思いました。

  • 名取磨一社長
    (以下、名取)
  • 名取磨一社長(以下、名)今は従業員が20人います。国内には、旋盤工場、マシニング(数値制御加工)工場、精密研磨工場の3工場があり、タイにも工場を作りました。国内で多品種少量生産、タイで大量生産という流れをつくっています。

  • お父様ではなく、おじい様から引き継がれるというのは珍しいケースだと思うのですが。名字も月井さんではないですし。

  • 月井は母の旧姓で、母方の祖父が1981年に立ち上げたのが月井精密の始まりです。日本電子の電子顕微鏡を作っていた部署から独立しての創業でした。父は別の職業に就いており、祖父がずっと1人で経営していました。祖父は高齢になり事業を縮小させて会社を畳もうとしていたんです。そこに高校生だった僕がアルバイトに行き、それがきっかけで「この会社に入りたい」と思うようになりました。そう祖父に伝えると「じゃあ全部教えてやる」と言って、汎用旋盤や汎用フライス盤など製造の基礎を教えてもらいました。

祖父が倒れ
営業から製造まで
すべて1人でこなした

  • 高校生の時に、将来の職業として「製造業の会社をやりたい」と思えたのはなぜですか?

  • 小さい頃からものづくりが好きで、高校生の時には、新車で買ったバイクをすぐにバラバラにしていました。そういう性分なので、このパーツの精度を上げたらもっと良くなるんじゃないか……と。2年くらい祖父と2人でやっていたのですが、20歳の時に祖父が突然、脳梗塞で倒れてしまい、1人きりになってしまったんです。それで、営業から納品、経理、会計処理、決算までをすべて自分でやらなければならない状況になりました。ほとんどゼロベースからのスタートでした。

  • それは大変ですね……。そのまま1人でもやっていくこともできたと思うのですが、会社をどんどんスケールしていこうと思われたのはなぜですか? 大きくなるほど自身の責任や労力が増えていくじゃないですか。

  • 単純に、寂しかったんです(笑)。1年くらい1人でやっていたのですが、24時間、誰とも話さない日もあって、仲間が欲しいなと思うようになりました。でも、そのためには魅力のある会社にしなければ誰も入社してくれないな、と。

     その時工場にあったのは、汎用旋盤と汎用フライス盤のアナログ設備が2台だけ。このままだとスケールしない(拡大できない)、と痛感しました。機械の数も足りないし、アナログ設備では機械を使う作業者の育成にも時間がかかります。

     それで、NC(Numerical Control、数値制御)化されたデジタル工場を作ろう! と決めたんです。そこから工場も移転させ、一つひとつ技術の標準化をはかっていきました。温度や湿度、加工の精度の管理など、すべて数値で管理していくやり方です。

  • それはどこで学ばれたんですか?

  • 周囲の経営者にとにかく会いに行って、教えてもらいました。若かったので、かわいがってもらえました。「おまえ、まだ潰れずにやってるのか!」なんてよく言われました(笑)。

     例えば、山梨県の都留市に有名な加工工場があって、金属加工機のマシニングセンターをすごくうまく使っていました。社長に頼み込んで1週間泊まり込みで教えてもらったんです。

     帰ってきてすぐにその機械を1台購入しました。そこからは毎年1台くらいのペースで機械を購入しており、15年間で14台の機械を購入しました。とにかく稼いでは投資して、の繰り返しです。一番高額なのは昨年購入した円筒研削盤(円筒状の工作物に砥石を当てて、外周を削る装置)で、3000万円くらいしました。

  • すごい行動力ですよね! 2代目って守りに入ってしまいがちで、他の会社のお話を聞いていても積極的な投資や事業拡大を躊躇することが多いんですよ。お話を聞いていると、名取社長は創業者タイプですね。

  • もともと社長としてスタートした時が1人だったからかもしれません。子供の頃から思いついてパッと行動するのが好きなんです。この国が面白いと教えてもらったらすぐ見に行きます。22歳くらいの時に、ドイツのものづくりが面白いと言われて、経営者が集まってドイツまで工場見学に行きました。

     その時見学した工場が、小さいけれども非常に高い技術を持っていたので、この技術を習おうと思ってしまったんです。他の方たちはスケジュールに従って別の国に移動した中、私は1で人残って工場に泊まり込み、工作機械の扱い方を教わりました。それで、日本に戻って同じメーカーの工作機械を購入しています。

  • 諏訪 貴子のプロフィール画像
  • 諏訪 貴子
    すわ・たかこ

    1971年東京都生まれ。成蹊大学工学部卒業。自動車部品メーカーを経て98年ダイヤ精機に入社。以降、経営方針の違いから2回リストラに遭う。2004年父の急逝に伴い、ダイヤ精機社長に就任。経営再建に着手する。近著に『ザ・町工場』(日経BP社)がある。

  • イメージ画像

立地の決め手は
「日系企業が
いないこと」

  • 素晴らしい行動力ですね。タイに工場を造られたきっかけは何ですか?

  • それも、タイで量産すると国内より安くできると聞いたのがきっかけです。それに、NC化を進めたことで技術が標準化されてきたので、海外でも製造できる製品は多いなと感じていました。タイのアユタヤで現地のローカル企業と組んで、ジョイントベンチャーという形でやっています。日本と同じ冶具や機械をそろえたコピー工場で、量産体制を構築しました。

  • 海外進出は立地などを決めるのに苦労しますが、最後はどんな点で判断したんですか?

  • 立地は、現地でもすごく治安の悪い町として知られている場所です。他に日系企業は1社もいません。それがいいので決めました。自分たちがうまくいけば、そのあたりの人たちはみんな当社で働いてくれます。日系企業が入る工業団地などは企業間の競争が激しいので最初から考えていませんでした。

  • お話を聞くととても合理的ですけど、それを決断するのは相当の勇気が必要だったんじゃないですか?

  • 昔から、「普通の人ならどういう選択をするだろうか」と考えて、それとは逆の選択をするようにしています。そういう癖が染み付いているのであまり特別な決断をしたわけではないですね。

     設備や備品などについて、部下が買いたいものを提案してくる場合も、目先のコストパフォーマンスはあまり気にしません。面白いと感じれば購入します。最近は、それを見越して飲み会の時に提案されるケースが増えていますね(笑)。

見積もりのコツは
「KKD」!
不安になって
NC化を決意

  • 工場をNC化して、タイに量産工場を作って……その次に取り組まれたのは何ですか?

  • 製造現場は大よそNC化できた、じゃあ事務所仕事はどうだと見渡したら書類の山でした。見積もりのための図面がほとんどです。どんな案件の受注確率が高くて、どれが失注しやすいのか、まったく分析できていなかった。そこで今度は見積もりを“NC化”しよう、と考えたんです。

     もともと見積もり作成には課題を感じていました。入院している先代のところに行って「見積もりのやり方を教えてほしい」と聞いたんです。すると「KKD(勘と経験と度胸)だ」と。

  • 見積もりを「KKD」で乗り切っている会社は多いですね。

  • それから何とか力技で見積もり業務をこなしているうちに、経営に必要なのは、技術力と見積もり力の両方だと気付いたんです。適切な利益をいただきながら、受注確率をできるだけ高めていければ、会社はそれだけ早く成長できます。そもそも見積もりって、ムダな作業が多かったんです。仮に受注率が3割だとすると、7割はお金にならない作業ですから。

     それで、見積もりを人工知能(AI)に任せられるシステムを作ろうと思ったんです。ただ、自分に知識がないのですぐには行動に移せませんでした。そんなある日、社員の福利厚生のためにつくった当社のバスケットボールチームに大学でAIを教えている先生が加わったんです。

     そこで、「見積もりをAI化したいんです」と相談したら乗り気になってもらえて、プロジェクトが始まりました。そこからSNS(交流サイト)の制作に関わったエンジニアや、米国の大手システム会社出身のエンジニアに来てもらって、どんどん仲間が増えていきました。

     構想から7年くらい掛かったのですが、NVT(東京都立川市)という別会社を立ち上げて、2017年9月に「Terminal(ターミナル)Q」というシステムをリリースしました。これは、FacebookのようなSNSの仕組みで、見積もりを依頼する企業と応じる企業をつなぐシステムと考えていただくとわかりやすいです。図面を投稿したり、チャットのやりとりを通じて素早く見積もりを出したりといった対応ができます。

  • このシステムを作るのに、機械1台分くらいはかかっていそうですね。

  • そうですね。1億円程度は投資しています。それでも「製造業界に異次元のスピードを」そして「企業間連携に異次元のスピードを」というビジョンを実現してビジネスを展開するためなので、惜しくはありません。

指示はしないが
課題を出す
名取式人材育成

  • 規模を拡大されてスタッフもどんどん増えていますが、採用する際の基準などはありますか?

  • 一緒に働いて面白そうかどうかですね。とにかく当社は若い人が多いです。今、最年長は34歳で、工場長をしています。大半が20代で、半数が女性。タイの工場長も女性です。とても優秀で助かっています。

  • 精密機械の繊細な作業は、女性のほうが向いていることも多いですよね。うちも女性を増やしたいんですよ。ほかに、社員さんとの関係で気を付けていることはありますか?

  • 僕は仕事の仕方を細かく社員に指示しませんし、失敗しても怒りません。新しく工場を作る時も、機械を置く場所から全部社員に決めてもらいます。実際に動くのは彼らなので、彼らが一番働きやすいような環境を整えてあげるのが一番だと思っています。

     オフィスも同じで、NC化や効率化という方針に反していなければ、社員が自由に決めることができます。こうした考えに基づいて、制服もやめてしまいました。

     ただ、課題は出します。今まで取り組んだことがない加工方法などを課題として与えます。それが企業と社員の成長につながります。もちろん、細かい作業方法は指示しません。指示しないから自分で考えて、僕が思いもつかない方法で実現してくれることもあるんです。

  • まだお若いですが、今後の製造業には何が起こると思いますか?

  • これから、製造業には2つの大きな革命が同時に起こると思います。1つは、3Dプリンターの普及。もう1つは、自動車からエンジンがなくなることです。

     僕は3Dプリンターによる量産という流れが来ると考えています。そうすると、切削加工が3Dプリンターに取って代わられますが、研磨工程はなくなりません。今まで以上に研磨が重要になるかもしれません。だから、今後は研磨に力を入れていくべきだと考えて、高額な研磨機を購入しました。

     自動車からエンジンがなくなることについては、エンジン関連の仕事の比率を下げていく努力を続けて対応するしかないですね。

  • 一緒に頑張っていきましょう。ありがとうございました。

構成:尾越まり恵、写真:鈴木愛子

中小企業研究所長 イトー所長の眼

一世代飛ばすと
ちょうどいい、
事業承継を成功に導く秘策

 高校生時代から祖父の工場でアルバイトし、そのまま会社を継いでしまった名取磨一社長。先代が体調を急に崩したところから見事にバトンを受け取り、さらに会社を成長させています。

 祖父から孫へという事業承継は珍しいのですが、実は意外とうまくいく要素が多いのです。

 例えばネット専業保険として成長しているライフネット生命は、日本生命OBの出口治明氏(現・立命館アジア太平洋大学学長)が58歳の時に、約30歳年下の岩瀬大輔・現会長と創業しました。出口氏自身は当時について、一世代下の息子世代であれば意見がぶつかることもあるが、およそ30歳も違うと、会社の人間関係的にはほとんど“孫”のようなものです。お互いの得意分野も動き方も違うのでけんかにならず、うまく役割分担ができた、と振り返っていました。

 保険業界に詳しい出口氏自身が「自分にないものを持つ人物」を求めていたところ、外資系コンサルティングファームなどで働いた経験を持つ岩瀬会長に出会い、ともに創業するという流れになったそうです。その後のライフネット生命の成長ぶりを見ても、この2人のタッグがうまく機能したことはわかります。

 このほかにも、ある関西の100年企業では、引退した祖父が孫の教育を引き受けることを一族のルールとしている会社もあります。現役の経営者として忙しい父親は仕事に集中し、経営者としての帝王学を教えるには、一歩引いた立場の祖父の方が良いというわけです。

 円滑な事業承継に頭を痛める中小企業は多い。各社の取り組みや準備の仕方を知り、御社なりの対策を考えてみてください。

伊藤暢人のプロフィール画像

伊藤暢人
いとう・ながと

日経BP総研
中堅・中小企業ラボ 所長

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中堅・中小企業ラボの設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省や東京都などが主催する賞の審査員を歴任。

ラボ概要

2017年4月に本格的に稼働した「日経BP総研 中小企業経営研究所」は18年4月に「日経BP総研 中堅・中小企業ラボ」と所名を変更し、中堅・中小企業の成長と経営健全化を支援するために活動を進化させています。これまで培ってきた経営・技術・生活分野での見識を活かし、情報発信や調査、教育、コンサルティングなど様々な形でサポートします。

中堅・中小企業の課題は、NTT東日本にご相談ください

バトンタッチ後に
会社を輝かせるために
他社事例を見て準備しましょう

経営の課題解決に向けたコンサルティングから、システム構築、保守・運用まで。
NTT東日本のサービスを実際に導入されたお客さまの課題や成果をご紹介しています。

日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents
経営力向上ラボ

TOPページへ戻る

経営力向上のヒント中小企業のためのICT活用論

記事一覧を見る

  • OPINION 12 好業績企業はテレワークを採用? 時短だけで終わらせない。業績もアップさせるポイント
  • OPINION 11 こんなハズではなかった! とならないための失敗しないRPA導入のコツ
  • OPINION 10 ICTトラブル時の大敵「サポートのたらい回し」とお別れするには?

諏訪貴子社長が直撃取材働き方改革と働きがい革新の最先端

記事一覧を見る

  • INTERVIEW 05 13社を束ねる持ち株会社で中小製造業の成長モデルをつくる
  • INTERVIEW 04 現場とオフィスの“NC化”で会社を10倍に成長
  • INTERVIEW 03 破綻寸前だったチームが 観客動員数リーグトップを達成

元大リーガー 斎藤 隆氏が迫る“社員力”で勝ち抜く経営のヒント

記事一覧を見る

  • INTERVIEW 11 作り手の思いを乗せて、「日本のいいもの」を世界に発信
  • INTERVIEW 10 忙しい店で働きがいを支えるICT
  • INTERVIEW 09 仮説を立てる「情報編集力」育成が大切に

歴史家 加来 耕三氏が紐解く歴史の失敗学

記事一覧を見る

  • HISTORY 13 徳川家康、三方ヶ原の大敗北
  • HISTORY 12 自ら命を絶った千利休
  • HISTORY 11 勇ましさに流された長岡藩

ホンネ座談会「働き方改革」を流行語で
終わらせない

  • SYMPOSIUM 「働き方改革」を流行語で終わらせない

中堅・中小企業の課題に、
NTT東日本のICTソリューション。

オンラインセミナーで学ぶ

【新講座続々!】 豊富なオンラインセミナーで、
自席に居ながらICT活用について学ぶ

オンラインセミナー

導入事例

様々な事例から課題解決ストーリーをご紹介

導入事例

まずは、情報セキュリティ対策。

迫り来る脅威に対策を!

情報セキュリティ
トータルサポート

メールマガジンで情報力を高める
【Biz Drive】

NTT 東日本が運営するBiz Drive(ビズドライブ)は、皆さまのビジネスを加速し、
快適なスピードで経営を続けていくための、ICT(情報通信技術)を活用した情報をお届けするサイトです。

Biz Drive(ビズドライブ)

働く人に、ICTのチカラを。

NTT 東日本は、「情報セキュリティ強化」「業務効率化」「顧客満足度向上」「事業継続」「コスト見直し」などさまざまな分野で企業の課題解決のサポートをいたします。まずはお気軽にご相談・お問い合わせください。

表示価格は、特に記載がある場合を除きすべて税抜です。

ページ上部へ戻る