日経BP総研 中堅・中小企業ラボpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 02 日経BP総研 中堅・中小企業ラボpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 02

笑い声のない「真っ暗な会社」が大変身!
社長自ら
チームビルディングを志し
13年連続の
増収増益企業へ

父親から引き継いだ会社の再建がテレビドラマ化されるなど、メディアでも注目を集める、精密金属加工メーカー・ダイヤ精機(東京都大田区)の諏訪社長が、気になる社長を直撃する連載。

今回話を聞いたのは、「よなよなエール」など人気のクラフトビールを開発・製造するヤッホーブルーイングの井手直行社長。ヤッホーの強みとなっているユニークなチーム運営はどのように生まれたのか。リーダー育成や採用について語り合う。

  • 井手 直行のプロフィール画像
  • 井手 直行
    いで・なおゆき

    ヤッホーブルーイング代表取締役社長。1967年福岡県生まれ。久留米工業高等専門学校卒業。大手電子機器メーカー、広告代理店などを経て、97年、ヤッホーブルーイング創業期に営業担当として入社。業績が低迷する中、2004年からネット通販業務を推進してV字回復させる。08年に社長に就任。

  • 諏訪貴子社長
    (以下、諏訪)
  • 諏訪貴子社長(以下、諏)今日会社に伺って、一歩足を踏み入れた瞬間に、雰囲気がすごく明るいなと感じました。でも、最初からそういうわけではなかったですよね?

  • 井手直行社長
    (以下、井手)
  • 井手直行社長(以下、井)はい。親会社は星野リゾートで、1996年にビール事業を立ち上げたのがヤッホーブルーイングの始まりです。僕は創業期から営業として働いていましたが、立ち上がりの8年間くらいは赤字で事業がうまくいかない時期が続きました。社員もどんどん辞めていきましたし、社内ではみんな誰かの悪口を言っているような状態でしたね。笑い声なんてほとんどなく、最悪な雰囲気でした。

  • ほんとですか! 今の雰囲気からは全然想像できないです。そんな大変な時期に社長になって、井手さんが改革されていったんですね。

  • 2008年に僕が社長になってから、真っ先に会社のカルチャーを変えようと思いました。一番難しいところから着手したんです。ただ、最初は我流でいろいろやってみたものの、うまくいきませんでした。それで、楽天が店舗向けに実施していたチームビルディングの研修を受けたんです。

     その研修に出て、大げさではなく人生が変わるくらい感動したんです。それで自分でもやってみようと思って、僕が講師となって社内向けに、毎年チームビルディングの研修を始めました。

     3年目くらいから会社の空気が変わってきて、5年目には今のような雰囲気になりました。今でもこの研修は続けており、今年9回目が終わったところです。

  • 社員が全員ニックネームで呼び合ったりして、井手さんも社員に「てんちょ」と呼ばれていますよね。他にも、かしこまった授賞式の場で仮装をしていたり、型にはまらない経営をされたりしているイメージなのですが、そのインスピレーションはどこから生まれるのでしょうか?

  • いろいろありますが、親会社の星野リゾートの良い文化を全部踏襲している点は大きいでしょう。あとは、当社はビール会社ですが、楽天市場にお店を出すことがきっかけで業績が伸びたこともあり、半分はIT企業の血が流れていると思っているんです。親しくしているITの経営者も多く、そこからヒントをもらうこともあります。

     ユニークな取り組みに反発して離れていった社員もいましたが、僕は正しいことをやっていると信じています。「正しいこと」とは、消費者が喜んでくれることだと思います。お客さんが支持してくれるなら間違っていないと信じていたら、業績も上がっていきました。おかげさまで、13年連続で増収増益を続けています。

  • 社員が失敗したときはどうしていますか?

  • 僕はまったく責めないですね。ただ同じことを繰り返さないように「なんでそうなったんだろう」と一緒に考えます。全員が集まる朝会でも「みんなチャレンジしたいよね、でもチャレンジすると失敗するときもある。これはセットなんだよ」とよく伝えています。それに、諦めたら失敗という結果に終わるけれど、5回やってうまくいったら、結果は成功です。失敗は成功するまでのステップになります。

     以前は僕が社員を怒ることもあったのですが、今は各部門のリーダーがしっかりマネジメントしてくれているので、注意するのはリーダーに任せて、僕が二重に怒らないように気を付けています。

採用基準は常に
バージョンアップ
「経営理念への共感」と
「優秀さ」を重視

  • 頼もしいリーダーが育っているのですね。でも、それだけのリーダーを集めるには、採用がすごく大事だと思います。採用基準はありますか?

  • 基準は2つあって、「経営理念に共感しているか」という軸と、「優秀である」という軸です。優秀な人というのは、社員の評価制度と同じ指標を採用面接でも適用して、達成志向性、チーム行動など、9項目を5段階で評価しており、現在の社員の中央値以上のポテンシャルを持つ人を選びます。経営理念への共感は年々重要度を高めているのですが、会社にフィットするかどうかのポイントはバージョンアップしながらいろいろ見ています。

     以前は、この他に「ビール好き」という軸もあって、その3つのうち2つに当てはまる人を採用していたんです。そのため、ビールが好きで優秀だけど、理念への共感度合いは弱いという人も採用していた時期がありました。そういう人は、チームで仕事をするのが苦手だったり、ユーモアが嫌いだったりして、社風に合わずほぼ辞めていきました。そもそもビール会社なので、ビールに興味のある人が応募してくるはずなので、「ビール好き」という基準は外しました。

  • イメージ画像
  • 今、リーダーは何人いらっしゃいますか?

  • 16人のリーダーがいます。立候補制で、みんなの承認を得てリーダーになるのですが、新卒だと一番早かった社員で入社4~5年の20代後半でリーダーになりますし、中途入社だと半年でなったケースもあります。

  • 諏訪 貴子のプロフィール画像
  • 諏訪 貴子
    すわ・たかこ

    1971年東京都生まれ。成蹊大学工学部卒業。自動車部品メーカーを経て98年ダイヤ精機に入社。以降、経営方針の違いから2回リストラに遭う。2004年父の急逝に伴い、ダイヤ精機社長に就任。経営再建に着手する。近著に『ザ・町工場』(日経BP社)がある。

3人兄弟の
真ん中として
自由に育った
社長就任前には
パチプロ生活も経験

  • 井手さんは、何度も転職したり、パチプロとして生きていたり、社長になられる前の経歴がすごいですよね。すべての経験があって今があるのかなと思うのですが、どう捉えられていますか?

  • 本当にその通りですね。たくさん転職して、この会社でも最初は大変な時期がありました。それらの経験は無駄になっていないと思います。周りからは「紆余(うよ)曲折ありましたね」なんて言われることもありますが、もしかしたら今の状態になるための最短コースを歩んできたのかもしれないなと思ったりします。

  • 守りに入ってしまう人も多い中で、井手さんは果敢に前に進んでいます。そのモチベーションはどこから生まれるのでしょうか?

  • 明るくてポジティブという性格がベースにあると思います。でも、常に高いモチベーションで切り開いてきたかというと、全然そんなことはないんですよね(笑)。

     これまでにいくつかのステージがあったと思っています。この会社に入社したときは、創業者の星野が偉大で、すごく前向きだったので、そういう人と一緒にいると自分も前向きになれました。

     そして、業績が少しずつ良くなってきた頃からは、社員が楽しそうに働いてくれるのがうれしくて、みんなが幸せな状況をもっとつくっていきたいというポジティブなエネルギーがモチベーションになりました。また、ファンが喜んでくれて、イベントやインターネットを通して「おいしい」とか、「ビールを飲んで幸せになった」というような声を聞くと、もう舞い上がってしまうような喜びがあります。社員やファンが喜んでくれたら、いろいろと起こるトラブルなどはあまり気にならなくなってきましたね。

  • 人に喜んでもらえることに幸せを感じているのがすごく伝わります。

     ところで、すごく気になったのですが、井手さんは、ご兄弟はいますか? あまり過保護に育てられた感じはしないのですが。

  • 僕は男3兄弟の真ん中なんですよ。親から何かやれとか勉強をしろとか言われたことはほとんどありません。とにかく僕はよくケンカをしていたので、そのときだけは父に怒られましたが、それ以外は自由にそのへんを走り回っている子どもでした。

     そんな子どもが社長なんかになったもんだから、家族たちは「突然変異だ」なんて驚いています。ずっと心配をかけていたのに、何が起きたんだろう、と。でも今はすごく喜んでくれています。

拠点間をモニターでつなぎ
社内コミュニケーションを
活性化

  • 今、ダイヤ精機には3つの拠点があって、それぞれ少しずつ雰囲気が違います。拠点内ではそれぞれまとまっているのですが、全社で1つのチームになりたいという課題があります。ヤッホーには東京支社もありますが、社員とのコミュニケーションはどのようにされていますか?

  • 今は月に1回の情報共有のための朝会を始業1時間前に始めて、1時間の会議のうち半分くらい僕が話しています。そのとき思う課題や、大事にしている理念に関する話が多いですね。東京の拠点とはテレビ会議をつないでいます。

     あとは、僕が常駐していない拠点にもできるだけ顔を出すようにして、仕事をしたり、雑談をしたりしながら社員とコミュニケーションを取っています。

  • 社内のコミュニケーションにICTは活用されていますか?

  • はい、拠点が今、4つに分かれているので、それぞれの拠点にカメラとモニターを設置して、様子が分かるようにしています。これは「やまびこ」と呼んでいるシステムで、2年前くらいから導入しました。

     離れた拠点の人が今、席にいるかを確認したり、朝来て「おはよう!」と手を振ってみたり。あとは、製造ラインも映るので、自分がマーケティングに関わった新製品が今まさに流れてきた! というような場面も分かりますね。基本はフロアに設置されているモニターで確認しますが、個人のPCからつないで見ることもできます。

     拠点だけでなく、在宅で働く社員とつないで打ち合わせをすることもあります。すごく便利だと感じています。

  • 素晴らしいですね。私もこれを導入しようと思ったら、社員から「監視されているみたいだ」と反発されてしまったんですよ。

  • これは僕が無理やりやろうとしたのではなく、社員からの提案なんです。会社を良くするにはどうすればいいだろう? という議論をすると、必ずコミュニケーションが課題だという話になるんですよね。その中で出てきた提案です。

  • 専門の社員がいるわけではなく、ICTが得意な社員が兼務で管理されているのですか?

  • 僕、入社してからずっとインターネット通販を担当していたんですけど、ICTは苦手なんですよね(笑)。ただ、インターネットを通したコミュニケーションや、人を喜ばせることは好きです。だから、そういう得意なところは僕がやりますが、僕の苦手な部分はその分野に詳しい社員に任せています。

     これまではICT専属の部門を設けるほど人手の余裕がなかったので、この分野に詳しい人が自力でやっており、そのメンバーが「やまびこ」も作ってしまいました。

     ただ、人員が増えてきたので、2017年の12月からICT専属のチームを立ち上げました。

     ICTチームでは、社内のスケジュール管理システムを移行したり、受注管理システムや顧客管理システムのバージョンアップ、セキュリティーソフトを入れ替えたりなどいろいろなことを担当してもらっています。以前は、個人に任せていたので、社員たちに案内しても、最新のセキュリティーソフトが入っていない端末があったりもしましたが、今はすべて管理されています。

     新しいシステムを導入するときは、ICTチームのリーダーと、それを実際に使うチームのリーダーとでしっかり議論してもらい、僕が最終決裁をしています。

  • ICTの導入もそうですが、井手さんはどんどん新しいことに取り組んでいます。10年後のイメージはどのように描いていらっしゃいますか?

  • 今でも製品の一部を海外に輸出をしていますが、10年後はもっと世界にビールを広めていきながら、もっともっと僕らの「よなよなエール」を飲んで幸せになる人が増えている状態にしたいですね。いずれは世界的にも熱狂的なファンがいるのは、よなよなエールを造っているビール会社だよなと言われるように、10年後はその雰囲気くらいはつくれたらいいなと思っています。

構成:尾越まり恵、写真:菊池一郎

中小企業研究所長 イトー所長の眼

人を変えるには
まず自分から
目を開いてくれる
学びの場を大切に

 2017年のビール類(発泡酒なども含む)の国内出荷量は前年比で2.6%減少しており、13年連続で右肩下がりの状況が続いています。一方で、コンビニエンスストアやスーパーなどの店頭では、国内大手メーカーの製品だけではなく、ベルギー、アメリカ、オランダ、アイルランドなど様々な国の銘柄を選ぶことができるようになりました。

 市場の大半を独占するようなガリバー的商材が生まれにくくなる中で、ヤッホーブルーイングの存在が目立っています。販売量はまだ小さいものの、クラフトビールに特化しながらも13年連続で販売量を伸ばしていることは、業界内でも注目されています。2014年に大手、キリンビールとヤッホーとが業務資本提携を結んだのもその表れでした。

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのヤッホーですが、08年に井手直行さんが社長に就任する前、社内はひどい雰囲気だったそうです。地ビールブームが去って売り上げが低迷。社内ではその犯人探しをするような状態でした。いつの間にか社内に派閥ができ「製造部門が悪い」「営業が弱い」「製品名が分かりにくい」などと陰口を言い合っていたというのです。新米社長だった井手さんは「なんでそれができないのか」と上から目線で社員に変化を求めるばかりだったそうです。実績をしっかりと残された今でこそ、明るく楽しくその頃のことを振り返っていますが、社長として藁(わら)をもすがる思いだったようです。

 そこで参加したチームビルディングの研修では、目からうろこが落ちるようなことばかり。ついに「人を変えるにはまず自分が変わる」ことの必要性に気付いたそうです。

 このように視野を広げることが重要なポイントです。

 他社の取り組み事例を見ることでも、視野を広げることができます。積極的な情報収集を心がけたいですね。

伊藤暢人のプロフィール画像

伊藤暢人
いとう・ながと

日経BP総研
中堅・中小企業ラボ 所長

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中堅・中小企業ラボの設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省や東京都などが主催する賞の審査員を歴任。

ラボ概要

2017年4月に本格的に稼働した「日経BP総研 中小企業経営研究所」は18年4月に「日経BP総研 中堅・中小企業ラボ」と所名を変更し、中堅・中小企業の成長と経営健全化を支援するために活動を進化させています。これまで培ってきた経営・技術・生活分野での見識を活かし、情報発信や調査、教育、コンサルティングなど様々な形でサポートします。

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