日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 11 日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 11

自然体で臨むインバウンド対策
作り手の思いを乗せて、
「日本のいいもの」を
世界に発信

日本各地のいいものをいかに世に伝え、残していくか。この大きな課題に向けて、立ち上がったのが日本百貨店の鈴木正晴社長だ。大手商社を辞して起業し、8年余りで首都圏を中心に9店舗を展開するまでになった。インバウンドで外国人客も増えているが、「日本人にも外国人にも同じように接する」という方針。さらに遠方の作り手のストーリーを店頭で分かりやすく伝える努力を続けている。それらを支えているのは、ICT機器でもある。

  • 斎藤
  • 斎藤(以下斎)日本百貨店と書いて、“にっぽんひゃっかてん”と読むのですね。私も、NHKで野球解説をするとき、最初に「“にほん”ではなく、“にっぽん”と発音してください」と教わったのですが、なぜ、“にほん”ではなく“にっぽん”なのですか。

  • 鈴木
  • 鈴木(以下鈴)外国人の友達に、どっちが発音しやすいか聞いてみたのです。すると「にっぽん」だと。それに“ほん”より“っぽん”の方が、どこかかわいいですよね。

  • 確かにその通りです。今日はその日本百貨店の、秋葉原にある「しょくひんかん」にお邪魔しています。全国の名産品がずらりと並んでいて、私の故郷、宮城のお酒や缶詰もありました。

  • 食品は今、9つの店で4000~5000種類を扱っています。別の店舗で主に展開している雑貨は800~1200種類ほどです。

  • そうした商品は鈴木さんたちが足を使って見つけ、仕入れているものばかりだそうですが、そもそもどうしてこういったお店を開こうと思ったのですか。

  • 私はもともと会社勤めでした。商社に入ってブランド衣料の輸入をしていたんです。それは、もう楽しかったですよ。扱っていたブランドはアルマーニなどで、合コンで「アルマーニ担当」と言うとモテましたし。大学に入るまで海外に行ったこともなかったので、刺激的でもありました。ただ、30歳が近づいてきたときに、他人が作ったブランドで商売をするのは自分でなくてもいいな、もっと英語が上手な人がやったほうがもっとうまくできるんじゃないかな、などと思うようになりました。

     自分だからこそできる仕事ってなんだろうって考え始めると、それまでは見えていなかったものが見えるようになって、日本には、名前がないばかりに売れない「いいもの」がたくさんあることに気が付いてしまったんです。名のないものをブランドにする仕事でなら、自分を生かせて、成長もできるのではと思いました。それで、会社を辞めちゃえ、と。安易ですよね。

  • ええ?! 思い切りがいい。それで、すぐに軌道に乗ったのですか。

  • 鈴木正晴のプロフィール画像
  • 鈴木正晴
    すずき・まさはる

    1975年生まれ、神奈川県出身。日本百貨店代表取締役。97年に東京大学教育学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。アパレル部門で生産や小売りを経験後、マーケティング部門で国内外のブランディング事業に携わる。2006年に同社を退社。10年12月、東京・御徒町に日本百貨店の1号店をオープンした。

総合商社を飛び出して
起業したものの
……

  • いいえ。最初は、「日本のいいもの」を海外に売ろうと思っていて、アメリカの展示会にも持って行っていたのですが、うまくいかなくて、会社がつぶれそうになって。それで、しょうがなく会社を存続させるために、輸入を始めました。

     こちらは人脈やノウハウもありますからうまくいって、2~3年で年商が3億円くらいになりました。そのときにふっと「ヤバい」と思ったんです。わざわざ大企業を辞めたのに、そこにいたときと同じようなことをしていては10年後に後悔するなと、はっと気が付いたんです。なので、それまでの仕事は全部、一緒にやっていたスタッフに渡して、また一人になって日本のいいものを海外に売ろうと決めました。

  • そこで「ヤバい」と気付いたこと、それから、会社員時代に自分の仕事に疑問を持ったことが大きな転機になっているような気がしますが、そうしたことに気付かない人もいますよね。なぜ、気付くことができたのでしょうか。

     実は、私自身も、プロ野球選手としていい契約をしてもらい、家を建て、高級車に乗るといういわゆるプロ野球選手らしい生活をしていた時期もありました。ですが、野球選手でいられる時間に限りがあると考えたとき、自由契約にしてもらえればメジャーに挑戦できることに気付いてしまって、いてもたってもいられなくなって、球団代表に相談に行ったのを思い出しました。こうしたきっかけは、どんなふうにして訪れるのでしょうね。鈴木さんの価値観、感覚はどこで形成されたのですか。

  • それは生まれて初めて受ける質問ですよ。おそらく、根底には劣等感があると思います。商社に入ってみたら、周囲はみんな英語ができるし、内定式のときからみんなが話すことのスケールも大きくて、それまで何も考えず世間知らずだった私は驚いてしまいました。入社後は、楽しく仕事はしていたのですが、周りの志の高さには追いつけずにいて、「私は何をやっているんだろう」と考えるようになり、先ほどお話ししたように、この仕事は私がしなくてもいいのではないか、他の人がやったほうがいいのではないかと思ったのです。

     そう考えるようになったのは30歳の頃ですが、もしも将来、子供に「パパの仕事って何?」と聞かれたときに胸を張ってそれに答えられるかなとも考えました。つまり、「パパは、こう考えてこの仕事を始めたんだ、貧乏かもしれないけれどいいと思うからこの仕事をしているんだ」と答えたいということでした。

  • 前の仕事で結果を出していなかったわけではなく、十分に通用していたのに、わざわざ別の道を選んだということですよね。であれば確かに、せっかく会社を辞めたのだからその時に思い描いていたように働こうと考えますよね。

  • ただ、輸入の仕事を手放して一人になって改めて考えてみると、日本人は日本のいいものを知っているんだろうかという疑問も生まれました。今でこそ日本百貨店のような日本の地域の逸品を扱うお店もたくさんありますが、当時は百貨店に行かないとそうしたものにはなかなか出合えず、百貨店には行かないような若い子は、伝統工芸品に触れ合う機会がありません。でも、触れ合ってその良さを分かってもらえれば、ちょっと高くても買ってもらえるはずですよね。そこで、商品とその背景にあるストーリーに出合える場所を作ろうと考えました。それで、まず1店舗、ものづくりを伝える場所を作ろうと、2010年に日本百貨店の1号店をオープンさせました。

  • 斎藤隆のプロフィール画像
  • 斎藤隆
    さいとう・たかし

    1970年仙台市生まれ。
    東北福祉大から92年に横浜大洋ホエールズ(当時)に入団。その後、2006年に米国に渡りドジャースとのマイナー契約から再スタートを切り、ついには一軍で抑えの切り札として活躍。その後、レッドソックスなどを渡り歩き、12年に帰国して楽天イーグルスに入った。日米通算で112勝139セーブを達成。15年に引退し、現在は経営を学びたいと、パドレスのアドバイザーなどを努めている。

  • イメージ画像
  • 1号店は順調でしたか。

  • いいえ、まったく。売れない以前に、仕入れができませんでした。お金を払って仕入れたいと言っているのに、断られることばかりでした。インチキだと思われたのでしょうね。それも仕方なかったですよ。

     ただ私はとても得な性格をしていて、そういうとき、「なんで仕入れさせてくれないんだよ、嫌なやつ!」と思うのではなくて、「どうしたらこの人は振り向いてくれるかな」と考えるんです。そこで「来ちゃった作戦」をとりました。アポが取れないので、直接その工場や店まで出かけて行って、そこから電話をするのです。「実は今、目の前まで来ていまして……」と。すると8割方、会ってもらえて、会って話をすると、そのうちの半分くらいの割合で、仕入れさせてもらえました。

     そうして仕入れたものを並べる場所があれば、たとえ売れなくても、店に並べておくことで少しずつ信用を得られます。

  • リアルに並べる場があることが、重要なんですね。

  • 1号店をオープンさせたときには、すでにネットもはやり始めていましたし、私たちが扱う商品は探せば他の店でも買えました。なので、ただ売るだけなら私が店をやる意味はゼロでした。でも、それまで知らなかった商品との出合いの場、分かってもらう場になれば意味は十分にあるし、時間はかかるかもしれないけれど、食っていける程度にはやっていけるだろうとも思いました。

いつかはニューヨークに
出店したい

  • 話を伺っていると、スーパーマーケットができ、その規模が大きくなり、地元の商店がなくなっていくという時代の流れに逆行しようとしているように聞こえます。その後の展開は想定通りでしたか。

  • まったくイメージしていなかったです。今もあまり、こうなろうという途中のイメージは持っていません。ただ、最終的にはニューヨークに店を出したいと、ずっと思ってきました。なぜなら、それがものづくりを続けるために必要だからです。

     ものづくりをしていた人が廃業してしまう理由は2つあって、1つはお金がないこと。もうかるならやめなくていいはずです。もう1つはモチベーション。今はだいぶ変わりましたが、かつてはものづくりには泥臭いイメージがあって、その仕事に対するモチベーションが高いとは言えませんでした。この2つを変えれば、ものづくりは変わるはずです。モチベーションのためには、ものづくりをしている人にお金を回すことが必要ですし、自分の作ったものがニューヨークでも売られるとなったら、やはりモチベーションは上がるでしょう。

     なので、作り手に十分にお金が入ってモチベーションが上がるのなら、私たちは店舗も1つでよかったんです。ところが、ブリキのおもちゃの作り手であるおじいさんから「こんな規模じゃ話にならない」と言われました。月額10万円程売れたからって、後継者が見つかるわけじゃないって言うんです。そこでまんまと「じゃあもっと売ればいいのね」と店を増やして、5年目にようやく「今年はいっぱい売ってくれたね」と言ってもらえました。感激しましたね。

  • そうした作り手の方々との交流が原動力なのですね。もともと買い付けは鈴木さんが1人で担当していたそうですが、今は多くのスタッフがバイヤーとしても働いているそうですね。

  • 最初私だけがやっていたのは、人がいなかったからです。この人と付き合いたいと思う人の作るものを仕入れるのは楽しいことです。その楽しみをみんなに味わってほしかったのですが、とはいえ、忙しくなるから嫌がるかなとも思っていました。

     ところがあるとき、女性スタッフが「私も仕入れをやりたい」と言ってきました。店の業務にプラスされることになるけれどいいかと聞いたら、それでもいいと。さらには、「私はお客様と接しているから売れるものが分かります。それに鈴木さんには分からないような、女の子が好むものも見つけられます」とも言われました。そうしてみんながバイヤーも兼ねるようになったのは、ここ3年くらいの話です。

  • 仕入れのルールなどはあるのですか。

  • 意識合わせは毎週のようにしています。例えば、テレビで有名なタレントさんが「おいしい」と言っていたから仕入れるのではなく、その放送から1年が過ぎてもやっぱり売りたいと思うものを仕入れようということは、口を酸っぱくして言っています。それを強く意識できる人にしか、買い付けの権限を与えません。

  • そうしたメンタリティーの部分だけですか。それでも統一感は損なわれませんか。食品のうちの何割は加工品にするといったようなルールはないのですか。

  • 「もう少しお菓子の比率を上げよう」などと話すことはありますが、でも、ほとんどないですね。例えば、この店舗は缶詰の売場が広いのですが、それは、東日本大震災での出来事が関係しています。

     震災は店ができて3カ月目に起きました。店の中はめちゃくちゃになりました。仕入れ先に苦労していた時期でもあり、その中でもお世話になっていた東北の工場さんには、こういうときこそこちらがサポートしたいと思って、在庫をすべて送ってもらい、調布パルコに頼み込んで場所を借りてその在庫を売りました。その中に缶詰もあったんですね。たいして売れなかったのですが、後でその工場の方から電話を頂いて「東京で鈴木さんが売ってくれているから」を合い言葉に頑張ったと聞きました。なので、今後もその工場さんを応援していきたいと思っています。

  • 人と人とのつながりを大事にしようという気持ちが、統一感の源なんでしょうね。

  • 難しいことではありますが、だといいなと思っています。ただ、どうしても売りたいという気持ちも生まれてしまうんですよね。

  • 売りたいと思ってはダメなんですか?!

  • そこが自分でも矛盾しているなと思っていて、会社としては売りたいんです。でも、それよりも大事なことがあると思うんです。私たちの商品は“モノ”ではなくて、それを作っている“ヒト”との付き合いだということを忘れがちにもなります。だから、月1回の店長会議などで、そのまき直しをしているんです。

  • 売ることを最優先する場でないとするなら、日本百貨店は何をする場なんですか。

  • 作っているヒトとの出会いの場です。この「しょくひんかん」の裏テーマは、食のテーマパークです。ヒントは、ディズニーランドから得ました。ディズニーランドが好きな人は、飽きずに何度でもそこに足を運びます。そこへ行くと楽しいからだそうです。しょくひんかんも、行けば楽しい、一度来た人に、あそこは楽しいからもう一度行きたいと思ってもらえる場所にしたいのです。

  • しつこくてすみません。売り上げの目標が達成できなかった場合はどうするんでしょう。

  • それはまずいですよね。でも、努力をしてもそうなら、それで現場を怒るのではなく、その分を自分が何とか考えてカバーして、そうしている間に、みんなに成長してもらえればいいと思っています。

作り手の思いを
伝えるために
ICTを生かす

  • 非常にユニークな日本百貨店のようなお店では、ICTはどのような貢献ができますか。

  • 2つあると思っています。ここは出合いの場なので、作り手が毎日、店頭で実演販売して、一対一の接客をすることが理想なのですが、実際には不可能です。なので、できない間は店頭のテレビモニターで商品を紹介する動画を流し始めています。

     先日はSkypeを使って和歌山県にある梅農家の作業場を案内する見学会を開催しました。秋葉原の店に30人ほどが集まり、大きなモニターを見ながら擬似的に作業場訪問をしたのです。農家の方にただ歩きながらiPadで場内を撮影しつつ説明してもらっただけなのですが、見ている方はそれでも楽しいのです。ついついそこで作っている梅干しを買ってしまったりするのです。

  • 現地に行くのは難しいのでしょうか。

  • 残念ながら遠いんですよね。飛行機に乗って車に乗り換えて、食事の手配もしてといったことを考えると、ICTを使った方がいいのかなと思います。

  • それは、そうですけど。しかし、その梅農家の方は抵抗なくiPadを使われるのですか。

  • 使いますね。こうした機器は地方で生活している人の方が抵抗なく使っているように感じます。東京は、何時になっても少し歩けばコンビニで買い物ができる環境にありますが、地方ではなかなかそれが難しい場所もあります。ネット通販を当たり前に使うので、逆にすぐに操作に慣れるようです。

  • ああ、なるほど。そういうことがあるんですね。では、もう1つのICTが貢献できることは何ですか。

  • 言語です。外国人のお客さんが増えていて、御徒町の店舗ではお客さんの8割は外国人という日もあります。スタッフ全員が英語を話せるわけではないので、「ポケトーク」という機械を使っています。手のひらサイズのやや楕円に近い形で、これまでの会話のデータを基に多言語の翻訳が次第にうまくなっていくという機械なんです。

     一方で、日本語ができる外国人を採用するという考え方もあると思うのですが、すると、日本の文化を学んでもらうのに時間がかかってしまいます。

     ポケトークはテレビのCMで知り、お試し期間を経て導入しました。最初は戸惑いましたが、今はみんなが慣れて使いこなしていますね。十分だと感じています。

     外国人に対して身構えるよりも自然体で受け止めて、できないところはICTを使ってサポートしてもらう。現状では、それで十分に対応できていると思います。

  • 外国人のお客さんが増えると、“外国人受け”しそうな商品を増やすのですか。

  • インバウンド向けに特別な対応をしたのは、両替機を導入したことくらいですね。電子マネーにも少しずつ対応しています。それ以外では、インバウンド需要を見越してハラル(イスラム教の戒律)に対応した食品を置きませんかという話も多いですし、そのたびに心が揺れ動きます。

     そうしたときには、道を誤った過去を思い出しながら、やるかやらないかを冷静に判断するようにしています。どうせなら、海外で日本のいいものを売る方がいいなと思っています。

  • 鈴木さんの話を聞いていると、ニューヨークでの出店という“あがり”のためのすごろくを、一マス一マス、自分で作り、やることを書き込み、それをしっかり実行していっているような印象を受けます。そこへ向けてこれからどんなマスを作っていくのですか。

コラボレーションで
流通網を拡大

  • 実は、自分たちだけで店を拡大していくのには限界を感じています。なので、他の人の力を借りて、日本のいいものを広めていこうというのが今のテーマです。極端なことを言えば、もしも私以上にこの仕事をうまくやれる人がいたら、私はその人にこの会社を譲ってそこに就職してもいいと思っています。いいものとその背景を伝えたいという思い、方向性は同じなので、一緒にやった方がいいですから。

     例えば、コンビニや空港に店舗のある書店の一角、アパレルブランド店の片隅にコーナーを作ってもらうなどして、仲間を増やし、商品の流通を増やしていきたいと考えています。

  • そうしたコラボレーションをするときに、気を付けていることはありますか。なぜこうした質問をするかというと、日本の野球界も“自分たちだけでの拡大”の限界を迎えているように思うからです。人口が減り、野球を楽しんできた世代も減りますが、何かとコラボレーションをすれば、より良い方向へ変わる可能性もあるとも思っています。そのヒントを伺いたいのです。

  • 作っているヒトを無視するようなことはしたくないと思っています。作り手の方の内面には「こういう売り方はしてほしくない」という思いがあります。これは、しっかりコミュニケーションしないと分からないことではあるのですが、そこは気を付けます。例えばコンビニで販売をするに当たっても、作っているヒトをないがしろにすることなく、私たちが「これはこういう売り方はしないでください」と代弁する必要があると思っています。

     それから、野球大好き人間としては、今のファンを切り捨てるようなことはしてほしくないと思っています。うちの父ももう70歳ですが、キャンプが始まる前からスポーツ新聞を読んでは「今年はやっぱり根尾(昂)君が注目だな」などと言いながら、開幕を楽しみにしています。そういう姿を見ていると、その楽しみは奪ってほしくないと思います。

  • 確かにそうですね。私の父も相撲や野球を見るのが大好きです。ただ、一人での外出は難しくなっています。でも、もしも球場に横になりながら観戦できて、お医者さんがすぐに来てくれる部屋があるなら、そこで野球をライブで見せたいと思います。

     それから、これはちょっと変な話かもしれませんが、例えば、ブランド力と伝統のあるプロ野球チームは、「そのチームのユニフォームを着て最期の時を迎えたい」というファンの声があればその希望に応える義務があるのではないかと思います。「棺おけには、そのチームのユニフォームを着て入りたい、そのために葬儀にかかる費用が多少高くなっても構わない」というコアなファンもいるはずなのです。球団はそうした取り組みを進めなくてはならないと思います。

  • 私もそう思います。ブランドを作った会社には、そうする責任があると思っています。私たちも「もう飽きたので店を閉めます」では、会社としての責任を果たせません。作り手の方に対しても、社員に対してもです。

     これまで軸がぶれそうになりながら、ぶれてはならないと思ってやってきたのも、ぶれてしまってはこれまで関わってきてくれたヒトを裏切ることになるからです。そうしたヒトたちに、この仕事に人生を懸けさせたことに私は責任を取るべきだと思います。仮に斎藤さんの言われた葬儀のようなものが難しくても、例えば、年に10回以上、球場に足を運んでくれた人の葬儀に球団が弔電を打つくらいはできるはずです。

  • 鈴木さんは、視野がとても広いですね。食品や雑貨だけでなく、スポーツ用品や子供のおもちゃなども、ぜひ日本百貨店で扱ってほしいですし、そのとき、そこにどんな商品が並ぶのか、ぜひ見てみたいです。

  • “百貨店”なので、屋上にある遊園地まで含めて、やってみたいと思っています。それも、ニューヨーク出店と並ぶ、もう1つの目標です。晴海埠頭あたりに5階建ての建物を造って、今の各店の店長に、各フロアのフロア長を務めてほしいです。そこに並べるスポーツ用品は、例えば、当たり前にいいもの、普通に考えたら「これだよね」というものです。

  • では、東京で作られている良い革を使ったグローブと、もう少し人件費の安いところで、そこそこの革で作られたグローブがあったら、どちらを店に並べますか。

  • 迷ったら、両方置きます。そこから最終的に選ぶのはお客さんです。それから、日本百貨店はセレクトショップではありますが、私たちの趣味に合わなくてもいいものは置きますし、置いてみて売れなければ、その商品を扱うのを止めるのではなく、作り手さんとのコミュニケーションでその商品を改良しようと考えます。

  • 売れないことを理由に、他の商品に入れ替えることもするのですか。

  • その改良の作業をやりきってもダメなら、悲しいし悔しいけれど、そうすることもあります。具体的にどんなことをするかですが、私たちは毎日お店でお客様と触れ合っていますので、売り手の目線ともう1つ、消費者目線で作り手とコミュニケーションを取っています。例えばその地元では大家族で毎食食べるという理由で大きな容器に入っている商品を、東京で一人暮らしをしていて、たまにそれを食べたいという人のために小さな容器に入れて売ってみるとか、そういったことです。サイズでも売れ行きは変わります。

  • それにしても、本当にぶれませんね。でも、頑固というわけではなくフレキシブルでもあります。

  • よく「いろんなことやってるね」と言われます。でも、やっていることは日本のものづくりの現場にお金を回すことだけなんです。それから、海外製品が悪いと言うつもりもありません。私だって100円ショップで買った物を便利に使っています。言いたいのは「日本のものもいいぜ」ということです。

構成:片瀬京子、写真:菊池一郎

中小企業研究所長 イトー所長の眼

「地方の高齢者はITが苦手」
という見方が覆され始めた

 日本百貨店は“少し危険な”お店です。店内を歩いていると、生まれ故郷で幼いころによく食べたお菓子が並べてあります。そこを通り過ぎると、見たこともないようなポテトチップスが置いてあり、POPには事細かに原材料へのこだわりから製造方法の工夫などが記されています。「これは懐かしい」「こっちはすごいな」と思っているうちに、気が付くと、買い物カゴがいっぱいになっているという店なのです。

 鈴木正晴社長が挑戦してみたのが、和歌山県の梅の生産者に依頼して加工場を歩きながらライブで紹介してもらうというイベント。秋葉原の店頭でその中継を見たお客さんが次々とその梅干しを買ってくれたのです。現地に行くのは大変だけど、距離を縮める力がICTにはあるのです。いまや、動画中継や会議は簡単にできるようになりました。

 ICTが身近になり、こうした動画を使ったイベントも簡単にできるようになりました。何より驚きなのは、都会よりも地方の不便な場所で生活する人の方がネットリテラシーは高いという鈴木社長の指摘です。もともとインフラがなければ、旧式の仕組みを飛び越えて最新式のサービスが入るという「リープフロッグ(カエル飛び)現象」。そのミニ版が日本の地方でも始まっているのかもしれません。地方の高齢者はITが苦手という説が覆されつつあります。

 技術の進歩とともに、これまではコスト面などから難しかった業務やイベントが簡単に、しかも安価にできるようになっているのです。

伊藤暢人のプロフィール画像

伊藤暢人
いとう・ながと

日経BP総研
サステナブル経営ラボ 所長
中堅・中小企業経営センター センター長

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中小企業経営研究所(現在の中堅・中小企業経営センター)の設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省や東京都などが主催する賞の審査員を歴任。

センター概要

2017年4月に本格的に稼働した「日経BP総研 中小企業経営研究所」は19年1月に「日経BP総研 中堅・中小企業経営センター」と所名を変更し、中堅・中小企業の成長と経営健全化を支援するために活動を進化させています。これまで培ってきた経営・技術・生活分野での見識を活かし、情報発信や調査、教育、コンサルティングなど様々な形でサポートします。

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