日経BP総研 中堅・中小企業経営センターresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 02 日経BP総研 中堅・中小企業経営センターresents 経営力向上ラボ INTERVIEW 02

軍手1ダースから映像加工へ。
若手に任せ切る「蒲田のハリウッド」

頼まれごとに
真面目に応え続け、
世界の最先端へ

東京の下町、蒲田――。住宅街の中に町工場が点在する地区に、アシスト(東京・大田区)の本社ビルがある。パッと見ると、工場にも見える3階建ての建物だが、ここは最先端の映像技術をリーズナブルに世の中に提供する前線基地だ。

そのアシストの創業社長である加藤光淑(みつよし)氏に、日米通算112勝139セーブという前人未踏の記録を持つ右腕・斎藤隆氏が、同社の今日に至るまでを聞く。

  • 斎藤
  • 斎藤(以下斎)アシストは自前で構築したシステムで、最先端の映像処理を手がけていると聞いています。具体的にはどんなことをしているのですか。

  • 加藤
  • 加藤(以下加)まず、ハイビジョンや4Kカメラで撮影した映像を編集するサービスなどを提供しています。8K/120fps(フレーム毎秒)という、高解像度でフレームレートの高い映像も扱えるシステムも持っています。

  • ということは、公開前の映画なんかも取り扱っているのですか。

  • 加藤光淑のプロフィール画像
  • 加藤光淑
    かとう・みつよし

    1959年東京都生まれ。
    関東一高では野球部で活躍し、卒業後は研磨剤問屋に入社。89年5月に町工場に、工具や雑用品などを納入する業者として独立。その後、光ディスクの製造設備なども取り扱うようになり、映像そのものの加工に進出した。台湾とのパイプを持ち、2013年には日台経済文化交流会の会長に就任。

「他社と比べると
リーズナブルですよ」

  • はい。ただ残念ながら、お見せすることはできませんけれど。公開前の映像が流出したら大変なことになりますから、セキュリティにはかなり気を遣っています。

    ほかにも映像に関することは手広くやっていまして、たとえば、粗い映像、古い映像を自動的に滑らかに、きれいにする技術も持っています。また、4K放送時代をにらんで、今のシステムで高画質(ハイレゾ)で撮影された映像を、4Kのレベルにアップグレードすることもできます。これから4K放送が増える中で、コンテンツが不足していますから、この技術は大変注目されています。しかも、価格は他社に比べるとかなりリーズナブルな価格です。

    そして、すでにその先の8Kについてもサービスを始めました。

  • 8Kはまだ国内でも対応できるところが、本当に限られているそうですよね。

  • はい。そうなんです。

    さらには空中に映像を投影する仕組みも開発しました。立体の画像を空中に浮かび上がらせることができるんです。これを使えば、手術中のお医者さんが、手袋を外さずに内臓の様子を立体的に見たりすることができるようになるんです。今までは、iPadに抗菌のフィルムを巻いて使っていたそうですから、手術室の中も大きく変わりますよ。

    もう1つ、VR(バーチャルリアリティ)も手がけています。これを付けてみてください(と、ヘッドマウントディスプレイを手渡す)。中にアニメの女性が立っているはずですよ。

  • イメージ画像
  • 立体画像を空中に浮かび上がらせる技術を体験する斎藤氏
  • おお、これは!

    このVRの性能が上がれば野球のトレーニングも大きく変わりますよね。今でもすでに映像が使われるようになっていますが、これからはもっとリアルなものに変わっていくでしょう。バッターボックスに入ってヘッドマウントディスプレイを使うと、斜めにピッチャーを見るので、立体感を出すのが難しかったんですよ。

    こうして色々な技術を見せてもらうと、かつて思い描いていた近未来が本当にすぐそこまで来ているなと感じました。こういった最先端の事業は、加藤社長が牽引しているのですか。

  • いえいえ、20代、30代の若い人に任せています。やりたいんだと言われたら、私が聞くのは「それは面白いのか」「すごいのか」ということだけです。

  • 細かいところは気にならないのですか。

  • それを聞いたって、もうすぐ60歳の私には最先端の技術は分かりませんから(笑)。最終的な責任は私が取りますが、自由にやらせています。

  • 知識も経験も十分なスペシャリストが社内に豊富なんですね。

  • 最近は増えてきましたが、最初は専門家がいませんでした。警察官だった子、保険営業をやっていた子、介護をしていた子など、他業界から来た子ばかり。今の技術統括部の本部長は日本に12人しかいないハリウッド認定技術者の一人ですが、元々は大工です。

  • うーん。野球未経験者が集まった草野球のチームがいつの間にかワールドシリーズに挑戦して勝ってしまったといような話に聞こえますが、どうやって育成したのですか。

  • 私は技術者ではないので教えられません。なので、未経験でもこの世界でやってみたいと思っている子、興味を持っている子を集めました。技術があっても興味がなければ、能力を発揮できません。能力が発揮できれば、自社開発できる部分が増えて、結果としていいシステムを安価に提供できます。

  • 創業は1989年だそうですが、その当時から映像が専門だったのですか。

軍手とナイロンテープから
始まった

  • いいえ。私が最初に売ったものは、700円のナイロンテープと1ダースで350円の軍手なんです。当時、京浜工業地帯には1万2000近くの町工場があったので、まずはそういった町工場のお手伝い、アシストをするため、なんでもやろうと考えていました。海外のプラントで仕事をすることになった会社があれば、そこで使う機材だけでなく、持っていくカップ麺や下着まで揃えて納めたこともあります。

    そうしているうちに、だんだんとお客さんから求められることが分かるようになりました。ちょうど新しいタイプの研磨材料に出合い、お客さんに見せたところ評判が良かったので、それを中心に扱うようになりました。

  • それがどうして、映像関連へ舵を取り、今や最先端に取り組むようになったのでしょう。

  • 少し長くなりますが、ラップフィルムに研磨剤を塗布した会社さんがありまして、それをどこかに使えないかといろいろな人に話をしていたときに、CDの原盤をつくる射出形成機に金型を固定するときに使えることがわかり、ある大手の家電メーカーに採用していただけました。

    その後、DVDでも協力するようになり、最終的にはその家電メーカーが世界で初めて作ったDVDの生産工場のシステム立ち上げも一部任せていただくようになりました。

  • お客さんのリクエストに答えて、社名の通りにアシストしているうちに、ついに工場の立ち上げまで! その頃の社員数は何名ですか。

  • 私と女房と、もう1人です。

  • それでどうやって?

  • もともと町工場というのは、小さな所帯が助け合うものなんです。ただ、専門性の高い小さな会社が協力し合うことで、NASAに納めるようなクオリティのものが作れる。私も、技術を持っている定年退職者を集めるなどして、チームを組んで臨みました。そうしているうちに、研磨剤でお付き合いのあった台湾企業のDVD工場の立ち上げも手伝いました。そうしたらその台湾企業が映像コンテンツを日本でも売り始めたので、その日本側の窓口に駆り出されたのです。

  • ようやく映像までたどり着きました。

  • ところが、映像コンテンツの輸入にはかなり面倒な作業が必要なんです。そこで、言われるがままに当社で請け負うようになりまして、そのうちにオーサリングと呼ばれる、映像をDVDに入れるようにデータ変換する業務も手がけるようになったんです。

  • 「次のイニングも投げてくれ」「明日も頼む」といったような「やってくれないか」という声に応えて、これまでにないものを作っていくうちに、現在に至ったということですか。

  • 斎藤隆のプロフィール画像
  • 斎藤隆
    さいとう・たかし

    1970年仙台市生まれ。
    東北福祉大から92年に横浜大洋ホエールズ(当時)に入団。その後、2006年に米国に渡りドジャースとのマイナー契約から再スタートを切り、ついには一軍で抑えの切り札として活躍。その後、レッドソックスなどを渡り歩き、12年に帰国して楽天イーグルスに入った。日米通算で112勝139セーブを達成。15年に引退し、現在は経営を学びたいと、パドレスのアドバイザーなどを努めている。

創業3年目で
最大のピンチに

  • そうですね。私は柳の木の枝のように生きているんです。風が吹いたらその風に、真摯に身を任せていたら、気が付くとここまで来ていました。

  • 大成功したある俳優さんからも、同じ言葉を聞きました。どうやってそこまで上り詰められたのかと尋ねたら、やはり「風を感じたから、それに乗ったんだ」と。でも、吹いている風に気付けない人もいますよね。風を感じられるようになるには、何が必要ですか。

  • 勘、でしょうか。それから、できるだけ行く先をイメージするようにしています。たとえば何年後には会社をこの規模にしていたいな、誰がどの事業を引っ張って行ってくれているといいなと考えていると、そうなっていくように思います。

  • ここに至るまでにはご苦労もあったのではないですか。

  • そうですね。創業3年目に、受け取っていた手形が不渡りになったんです。当時の年商の半分近くにあたりましたから、「ああ、これで終わりかな」と目の前が真っ暗になりました。その頃最も大きかった取引先が倒産し、関連会社が次々と連鎖倒産した結果です。当時、子どもは一歳で家も買ったばかりでローンもかなり残っていましたから、少しでも回収しようと毎晩一生懸命走り回っていました。

    きっと憔悴していたのでしょう。見かねた女房が「一生懸命働いて、一生懸命返して、その後は普通の仕事に戻ればいいじゃないの」と言われてふっと楽になり、そこからはもう馬車馬のように働いて3年で完済できました。あのときのことは一生忘れませんが、捨てる神あれば拾う神ありで、手を差し伸べてくれた方々もいて、そのおかげです。

  • 勘、それから運がいいとおっしゃる方はたいてい人一倍努力しているものですが、現在の経営状況はいかがですか。

  • 以来無借金経営で、黒字を続けられています。得たお金は銀行に寝かしておいても仕方ありませんから、次の事業への投資に回します。

  • その決断力があるから、吹いた風を最大効率で動力に変えられるのでしょうね。でも、それだけ設備投資をして、どうして安価にできるのですか。

  • 他社よりリーズナブルな価格でも提供できるのは、AI(人工知能)をなるべく使って自動化している部分が多いからでもあるのですが、一番は、設備投資額を無理に回収しようとしていないからでしょう。リーズナブルな価格にして、より多くのお客様に使っていただけて、いつか利益として戻ってくると考えているのです。もしも自分の利益のことばかり考えていたら、かえって損をすると思うのです。

  • 社員の方にもこういった話をされますか。

社員は自分自身のために
働いてくれればいい

  • 社員には「この会社のために働いてくれなくていい」とよく言っています。自分自身のために働いてくれて構わないんです。そうすれば会社に自然と還元されるからです。もちろんその頑張りに対しては、こちらからも社員にできるだけの還元をします。私は、真剣に自分の仕事を考えている社員に、本当に感謝しているんです。

  • 加藤社長がプロ野球チームの監督なら、きっと選手一人ひとりに自由にプレーさせますね。それが選手をモチベートするからです。それから、お客さんを楽しませるには、喜ばせるにはどうしたらいいかを考える。勝つことも大事ですがそれはお客さんのためにできることの一部であって、勝つための具体的な方法はきっと、信頼の置けるヘッドコーチに任せるような気がします。

  • 最初にセキュリティ対策はしっかりやっていますとお話ししました。もちろん、データはクラウドを使って管理していますし、暗号化もかけていますから、持ち出しても外では使いようがありません。

    ただ、どれだけ対策をしても、権限を持っている社員に心変わりされ、持ち出されたら終わりです。会社は人だとよく言いますが、その通りだと思いますね。

  • そこが最大のセキュリティ対策になっているんですね。ご自身を運が良いとおっしゃるのも、そうやって人との関係を大事にされてきたからこそでしょう。そもそも、加藤社長はなぜ起業されたのですか。

  • 野心を持っていたんです。私は江戸川区の生まれで、幼い頃に両親が離婚し、母方の祖父母に育てられました。高校は都立以外に選択肢がないと思っていたのですが、熱心に野球をやっていたので、学費は免除で寮費だけ自己負担すればいい、関東一高の特待生になれたのです。

  • 当時のポジションは?

  • 高校1年の時はライトで、2年からはセカンドでレギュラーでした。ただ、斎藤さんのようには甲子園に出ることはできず、大学進学のための合同練習には参加したのですが、仕事の道へ進んで、そこで一旗揚げようと。それで工業資材の会社に入って、倉庫勤務やトラック配送を担当しました。私は営業をやりたかったのですが、大卒でないと営業には回せないと言われたので、会社から許可を得て配送が終わってから夜間の短大に通って卒業し、それでようやく営業に回れたのです。その現場で学んで、今から29年前、30歳で起業しました。

  • 努力も苦労もされているんですね。こうした経験から社員を大切にする会社をつくり、社員も会社を大切にするという社風の礎となっているのでしょうね。会社と社員が信頼し合い、大切にし合うことが、会社を強くするんですね。今日は様々なことを教えていただき、ありがとうございました。

構成:片瀬京子、写真:菊池一郎

中小企業研究所長 イトー所長の眼

社員の心をつかむことがセキュリティの第一歩

一般企業であれば製品情報や個人情報、アシストであれば公開前の動画などが社外に流出してしまうと会社は致命的なダメージを負いかねません。データを暗号化しクラウドに保存するなど様々な技術が開発されていますが、それを破ろうとするものがいるのも事実です。

アシストはまさに「蒲田のハリウッド」と呼べるでしょう。だからこそ、同社はセキュリティ対策にも手を抜かず徹底しています。何よりも社員がこの会社で働くことが大好きであることが、最大のセキュリティ対策になっています。若い社員が自分たちで次の開発テーマに挑み、それを実現してきました。自分たちにまかせてもらえる、そんな会社で働きたいと、ツイッターで募集しただけでも、何人も応募があるほどです。

社員に活躍の場を与える―。そんな会社には人手不足の時代でも若くて挑戦する人材が集まってくるのです。自由な雰囲気がなければ新しいものを生み出すことはできません。自由に安心して新しいことにチャレンジできる環境づくりをする。このような背景からICTをうまく使いこなすこと、セキュリティ対策をしっかり行う事は重要なのです。

伊藤暢人のプロフィール画像

伊藤暢人
いとう・ながと

日経BP総研
中堅・中小企業ラボ 所長

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中堅・中小企業ラボの設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省や東京都などが主催する賞の審査員を歴任。

ラボ概要

2017年4月に本格的に稼働した「日経BP総研 中小企業経営研究所」は18年4月に「日経BP総研 中堅・中小企業ラボ」と所名を変更し、中堅・中小企業の成長と経営健全化を支援するために活動を進化させています。これまで培ってきた経営・技術・生活分野での見識を活かし、情報発信や調査、教育、コンサルティングなど様々な形でサポートします。

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