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攻める事業も継続は簡単でない
三国志・赤壁の戦い
(曹操の失敗)

「歴史の失敗学」では、高度 ICT 時代の中小企業経営者が失敗をしないように教訓となる歴史の一片を、人気歴史作家・加来耕三氏が書き下ろします。今回は、事業継続の難しさを三国志のハイライト、「赤壁の戦い」から、明らかにしました。

今回のストーリーに取り上げた「魏」の曹操は、赤壁の戦いの頃、三国の中で最も強大な力を蓄え、中国大陸三分の二を支配し、間もなく天下統一を成し遂げようという勢いがありました。ところが、赤壁の戦いの折、魏軍に風土病が蔓延、しかもそこに「呉」の苦肉の計が繰り出されます。

中国統一という攻めの事業も、一転、予期せぬ事態にすべてを失いかねないという状況に陥ったのです。とはいえ、曹操はすべてを失うことはなく、事実上の中国全土の王となった、と加来耕三氏は説きます。曹操は何に失敗し、その後、いかなる判断で最悪の事態を回避したのでしょうか。

中堅・中小企業ラボの伊藤所長からも、今回のストーリーから何を見いだすべきか、そのヒントをご提示します。

  • 加来耕三のプロフィール画像
  • 加来耕三
    かく・こうぞう

    1958年大阪市生まれ。奈良大学卒。歴史家・作家。『英雄たちの選択』『その時歴史が動いた』(いずれもNHK)、『世紀のワイドショー! ザ・今夜はヒストリー』(TBS)などに出演。著書に『加来耕三の戦国武将ここ一番の決断』(滋慶出版/つちや書店)、『徳川三代記』(ポプラ社)など多数。

孫権の決断

  •  建安13(208)年6月、魏の「丞相(じょうしょう、宰相)」となった曹操は、翌7月、天下統一を策して、いよいよ南下を開始した。
  •  この頃、中国全土に蟠踞(ばんきょ)していた豪族たちは、離合集散の末、大半がすでに消滅していた。曹操の許へ吸収されるか、さもなければ江南の呉・孫権を頼るか、あるいは荊州(けいしゅう)、益州といった僻地に、独立勢力を保持する者の許(もと)へ誼(よしみ)を通じるかの外、道はなかった。
     劉備はこの時、関羽・張飛と共に、荊州の牧(長官)・劉表のところに身を寄せていた。
  •  そこへ、曹操の魏軍が殺到して来るという。曹操の目標は、荊州であった。この地を得れば長江沿いに東へ進み、孫権を討つことが可能となる。つまり、天下統一が成るわけだ。
  •  ほどなく曹操の南下が荊州全域へ伝えられたが、劉表はその報を受けた翌日、この世を去ってしまう。あとを継承した次男の劉琮(りゅうそう)は、多勢に無勢と曹操の軍門に降った。
     漢水北岸の樊城(はんじょう)に拠っていた劉備は、なすすべもなく、荊州の戦略物資の集積地・江陵を目指して南下した。が、10万余の臣民にまとわりつかれ、行軍がはかどらず、ついには長躯(ちょうく)追撃してきた魏軍につかまってしまう。
  •  生命(いのち)からがらに逃れた劉備は、途中、劉表の長男・劉琦(りゅうき)の軍勢1万余と合流した。
     もし、この劉琦の1万余がなければ、劉備と孫権の連合軍構想は成り立たなかったにちがいない。ここで立ち上がったのが、劉備の軍師・諸葛孔明であった。
  •  このとき孫権は、鄱陽湖(はようこ)の入口にある柴桑(さいそう、現・江西省九江市西南)に出陣していた。戦うか、曹操に臣下の礼をとるかーー苦悩する彼の前に、孔明があらわれる。孔明は28歳。孫権は1つ下の27歳であった。
  • 『三国志演義』では、悩む孫権が「劉備どのはどうするのか」と孔明に問う。
     すると孔明は、
    「戦国のときの田横(でんおう)は、斉の一介の壮士にすぎませんでした。が、義を守って国の滅亡に殉じました。わが劉備は漢皇室の末裔であらせられるうえ、その英名は天下に聞こえており、心ある人々から仰ぎ慕われております。その劉備にして曹操の野望を阻止しえないときは、それは天命というもの。潔く世を棄てられるお覚悟ではあれ、曹操の風下に立つ道理がございましょうか」
     そういって孫権を挑発し、抗戦の決断を下させるということになっている。
  •  が、これは史実と異なる。それ以前に孫権は、呉軍の最高司令官に周瑜(しゅうゆ)を選び、劉備との外交の重責を魯粛(ろしゅく)に託していた。孫権は双方の戦力分析を終え、疲労に加え、土地不慣れな曹操軍が、兵数ほどには役に立たないことをすでに摑んでいた。加えて劉備が、合流した劉琦の1万余の軍勢と連合することで、より決断を確かなものにしようとしたにすぎない。
  • 「断に当たって断ぜざれば、反って其の乱を受く」(『史記』)
     決断すべきときに決断をしなければ、かえって混乱をひき起こすーー場合によっては、すべてを失うということを、孫権は知っていたといえる。

  • 【三国志・赤壁の戦い(曹操の失敗)】
  • 曹操は、呉の老将・黄蓋の“焼き打ちの計”を許してしまい炎と煙に包まれた

赤壁の真相

  • 11月、曹操の水軍がついに、大挙して出撃した。
  • 『三国志演義』によれば、赤壁の戦いに際して、呉の老将・黄蓋(こうがい)が“苦肉の計”を採用したとされるが、史実のほどはともかく、この手の策は古来、多くの成功例を持つ。逆にいえば、謀略こそが戦いの本質といえるかもしれない。
  •  周瑜の率いる水軍が、赤壁の地で曹操の大軍を迎え撃ったときのことーー対岸に浮かぶ曹操の大艦隊、巨艦の群れをみて、黄蓋が周瑜に進言した。
    「敵は大軍を擁していますが、味方の兵力はそれに比べてあまりにも僅かです。このままでは、長くもたないでしょう。しかしながら、対岸に停泊している敵の艦隊は、ゆれるのを気遣って、舳先(へさき)と艫(とも)を繋いでおります。あれではすぐに動くことはできますまい。この機を逃さず、焼き打ちをかければ撃退はできるはずです」
  •  周瑜の許可を得た黄蓋は、さっそく数十隻の船を調達すると、焼き打ちの準備にかかった。同時に、ひそかに周瑜と謀って、焼き打ちを成功させるための策を2つ用意した。1つは曹操に密使を派遣しての黄蓋が降伏を申し入れる。しかし、それだけでは名うての曹操を、信頼させることができない。そこで採用されたのが、“苦肉の計”であった。
  •  黄蓋は、軍議の席で降伏論を述べて譲らず、周瑜の怒りをかって諸将の面前で百叩(たた)きの刑に処された。肉は裂け、骨は鳴り、さしもの黄蓋も陣屋に運び込まれたときは気を失っている。その有様は、呉軍の陣屋にもぐり込んでいた曹操側のスパイによって、逐一、曹操のもとに知らされた。はじめは黄蓋の降伏申し入れに半信半疑であった曹操も、この処罰でようやく信用する気になった。
  •  この結果、曹操は黄蓋の船団が接近したとき、降伏しにきたものと信じて警戒を怠り、容易に“焼き打ちの計”を許してしまったのである。これが有名な、「赤壁の戦い」のクライマックスとなった。
  •  しかし、正史『三国志』の「武帝記」には、「公(曹操)は劉備との戦いに不利であった。疫病が大流行し、多くの死者を出したため、公は兵をひいて帰還した」とあった。同様の疫病については、劉備の「先主伝」にも、赤壁の戦いで勝利した劉備と呉軍は、水陸から追撃戦を敢行したことに言及し、「また当時、疫病が流行し、死者が続出したので、曹操の軍勢は撤退せざるを得なかった」と記している。さらに、孫権の「呉王伝」には、「(魏の)兵士たちは飢えと疫病で大半が死んだ」と同一の述懐が見られていた。
  •  では、これらに記述されている疫病とは、どのようなものが流行ったのか。これには、風土病との見解が圧倒的であった。
  •  『三国志』の「周瑜伝」には、
    「孫権は周瑜、程晋らを派遣し、劉備と力を合わせて曹操を追撃させ、赤壁で魏軍と遭遇した。このとき曹操の軍勢は、すでに疫病が発生しており、そのため曹操は、一度応戦しただけで軍を江北へ退却させた」
     とある。史実から推測すれば、曹操は勢いに乗って南下し、一気に雌雄を決しようとした。が、疫病が流行り、魏軍の将兵は急速に体力を衰弱させたようだ。
  •  そこをダメ押しするかのように、周瑜の奇策(炎上した船を魏軍の船団に突撃させる)=火攻めが敢行されて、魏軍が崩壊した、と見るのが的を射ているのではあるまいか。
  •  戦争のうえでの退却であれば、あるいは曹操の立ち直りの再戦は早かったかもしれない。しかし、相手が悪い。風土病とあっては、さしもの曹操も打つ手を持たなかったのだろう。
  •  ただ曹操が偉かったのは、第2次赤壁の戦いを決断しなかったことである。感情にかられて、面子に拘って再戦すれば、手ぐすね引いて待ち構える呉軍と劉備たちに、思わぬ不覚をとり、あるいは曹操は、すべてを失ってしまったかもしれない。退却と戦後の情報収集・分析。さすがに魏は優れていた、といえそうだ。
     曹操は、天下統一できずとも、事実上、中国全土の王となった。そのおかげで、歴代王朝はローマ帝国が分裂したヨーロッパとは異なり、大陸国家の形を維持することに繋がったのである。

挿絵:中村麻美

中小企業研究所長 イトー所長の眼

リーダーに必要なのは
大胆さと慎重さ

赤壁の戦いで曹操が敗れたのは有名な話です。だが、その曹操はその後、魏によって事実上の中国の覇者となりました。書物をひも解けば、曹操は決して格好良いとは言えないようなタイプだったとか。その人物がなぜここまでの“偉業”を成し遂げたのでしょうか?

戦術研究者でもあった曹操は、陸戦では大胆な策を取ることでも有名でした。予想を超える大胆な戦略で翻弄し、相手を打ち負かしてしまう、こうして並み居るライバルに競り勝ってきたのです。反面、とても慎重な一面を持ち合わせていました。常に最悪の事態を考え、それ以上のリスクを冒さない。その手堅さが「破滅」から曹操を救ってきたのだと考えられます。赤壁の戦いでも、面子と言うことを考えれば、曹操が無理をして再攻撃を仕掛けるという無謀な策もとり得たはずです。しかし、曹操は自重したことで、後に事実上の中国の覇者の座をつかんだわけです。

現代の企業経営でも、この二面の重要性は同じです。企業を改革し飛躍させようとするのであれば、大胆さが経営者に求められます。一方で、世代を超えて継続していこうとするのであれば、慎重さは不可欠です。どちらか一方がかけても、企業は世代を超えて長く続けることは難しくなります。今、世の中で求められるのは、働き方改革と事業の継続性の両方です。大胆な視点で改革を押し進め、慎重な姿勢で事業を守っていく、時には外部のリソースを活用しながらも、この姿勢を貫くことが経営者に求められているのです。

伊藤暢人のプロフィール画像

伊藤暢人
いとう・ながと

日経BP総研
中堅・中小企業ラボ 所長

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中堅・中小企業ラボの設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省や東京都などが主催する賞の審査員を歴任。

ラボ概要

2017年4月に本格的に稼働した「日経BP総研 中小企業経営研究所」は18年4月に「日経BP総研 中堅・中小企業ラボ」と所名を変更し、中堅・中小企業の成長と経営健全化を支援するために活動を進化させています。これまで培ってきた経営・技術・生活分野での見識を活かし、情報発信や調査、教育、コンサルティングなど様々な形でサポートします。

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